今回はジョニ・ミッチェルのランキングを作成しました。
この人は言わずと知れたシンガーソングライターのビックネームです。
しかし私はイメージで損をしている人ではないかと思っています。
「青春の光と影(Both Sides, Now)」を筆頭として、フォーキーでしっとりした曲を歌うイメージで、固定されているような気がします。
もちろんそういう曲にも名曲が多いと思います。
しかし一方で人気を限定してしまっているような気がしないでもありません。
そこで今回はミディアムテンポ以上の曲限定で選曲してみました。時期はデビューから1970年代に限定しています。
取り上げた曲を一通り聞いていくと、思っていた以上にストレンジな感覚の持ち主であることがみえてきました。
今回は少し違った角度から、ジョニ・ミッチェルをご堪能ください。
- 1 1位「All I Want」(アルバム:Blue)
- 2 2位「Coyote」(アルバムHejira)
- 3 3位「Carey」(アルバム:Blue)
- 4 4位「Talk to Me」(アルバム:Don Juan’s Reckless Daughter)
- 5 5位「Big Yellow Taxi」(アルバム:Ladies of the Canyon)
- 6 6位「Help Me」(アルバム:Court and Spark)
- 7 7位「The Jungle Line」(アルバム:The Hissing of Summer Lawns)
- 8 8位「Chelsea Morning」(アルバム:Clouds)
- 9 9位「Car on a Hill」(アルバム:Court and Spark)
- 10 10位「The Dry Cleaner from Des Moines」(アルバム:Mingus)
- 11 番外編「The Circle Game」(アルバム:Ladies of the Canyon)
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1位「All I Want」(アルバム:Blue)
■曲名:All I Want
■曲名邦題:オール・アイ・ウォント
■アルバム名:Blue
■アルバム名邦題:ブルー
■動画リンク:「All I Want」
アップテンポかどうかは微妙なところですが、こちらに分類しました。
この曲はまずジョニとジェームス・テイラー(James Taylor)のギターが、キラーです。
正確に言うとジョニはアパラチアン・ダルシマーを弾いていますが、いずれにせよ冒頭から音のテンションが明らかにおかしいです。
このアルバムは「Blue」というタイトルです。
そのタイトル曲は以前恋仲だったデヴィッド・ブルー(David Blue)というシンガーソングライターのことを歌っているそうです。
そしてこの曲はレナード・コーエン(Leonard Cohen)との恋愛について歌っていると言われています。
更にはこの曲でギターを弾いているジェームス・テイラー(James Taylor)とも交際していたそうです。
彼女は恋多き女と呼ばれていますが、多すぎかもしれません。
おそらく惚れやすく、一度惚れたら行くところまで行ってしまうタイプなのではないでしょうか。
この曲でも「あなたの髪を洗ってあげたい」という生々しい歌詞があったりします。
恋に生きる女の業みたいなものを感じる曲です。
2位「Coyote」(アルバムHejira)
■曲名:Coyote
■曲名邦題:コヨーテ
■アルバム名:Hejira
■アルバム名邦題:逃避行
■動画リンク:「Coyote」
この曲はザ・バンド(The Band)のラスト・ワルツ(The Last Waltz)でも演奏されています。
そのライブでこの曲を知った人も多いかもしれません。
私は渋谷陽一さんがお気に入りとして挙げていたことから、このアルバムを買いました。
この曲はジャコ・パストリアス(Jaco Pastorius)の参加によって、とてもスリリングな曲に仕上がっています。
まずイントロからお聞きください。
ギターの後にポーンという音が入っていますが、おそらくこれはジャコのハーモニクスかと思います。
もうこの時点で何かが普通じゃない演奏ではないかという予感が漂ってきそうです。
ジャコ・パストリアスはフュージョンで最高のベーシストだと言われていますが、もしかしたら全ジャンルでも統一チャンピオンみたいなベーシストかもしれません。
歌が始まると、異物感のあるベースがのたうり回わります。
あまりに自由すぎるベースプレイだと思うかもしれませんが、この演奏はまだジャコ地獄の一丁目にすぎません。
ちなみに「シャドウズ・アンド・ライト(Shadows and Light)」というライブアルバムは、今回あえて対象外とさせていただきました。
もし今回ジャコ・パストリアスとの曲が気に入ったら、ジャコ地獄を味わえるそのアルバムをおすすめいたします。
3位「Carey」(アルバム:Blue)
■曲名:Carey
■曲名邦題:ケアリー
■アルバム名:Blue
■アルバム名邦題:ブルー
■動画リンク:「Carey」
「Blue」の2大名曲の内のもう1曲の方です。
こちらを3位にしましたが、ほぼ同率と考えて差し支えありません。
曲の魅力はほぼ「All I Want」と同じといえますが、こちらの方がより軽快な曲です。
歌詞は先程の曲ほど重くはありません。
まず「この風はアフリカからの風」という出だしの歌詞がすばらしいです。
主人公はどうやら誰かと一緒に世界中を旅しているようです。
次はどこの都市に旅をしようかしらと自由気ままな旅の様子を歌った曲ですが、最後にオチがあります。
最後はこう終わります。
「でもあなたは私の視界から消えてしまうのね」
歌詞からして、おそらく一緒に旅をしていたのは男性だったと思われます。
奔放な女性の元から男性が去っていったことをうかがわせる歌詞です。
ただこの頃の彼女はかなりのペースで男性遍歴を重ねていた時期でしたので、この曲の歌詞は自分の体験を歌っているのかもしれません。
男にすがりつくような感じではなく、あっさりとしている感じがしますけどね。
4位「Talk to Me」(アルバム:Don Juan’s Reckless Daughter)
■曲名:Talk to Me
■曲名邦題:トーク・トゥ・ミー
■アルバム名:Don Juan’s Reckless Daughter
■アルバム名邦題:ドンファンのじゃじゃ馬娘
■動画リンク:「Talk to Me」
こちらもジャコが参加している曲です。
ジャコが参加した曲を聞いていると、いつも感じることがあります。
周囲と音を合わせようとしていないということです。
正確にいうとジャコが参加していたウェザー・リポート(Weather Report)では、ある程度グループ表現に参加しています。
しかしジョニとの共演では、良くも悪くも自分勝手な演奏をしています。
先程の「Coyote」でも感じますが、ジョニのギターとジャコのベースの音が、同じ意図の下で演奏しているかといったら、全然そんなことなさそうです。
この曲はギターとベースばかりが活躍するかなり特異な曲ですが、演奏の一体感は全くありません。
ジャコはいつものゴリゴリしたオラついたフレーズは少し控えめにしています。
その代わりにロングトーンを中心に弾いていますが、そもそもベースなのにロングトーン中心の演奏ってなんだよという感じです。
一方でジョニもジョニです。
2:48ぐらいのところでジョニがニワトリみたいな声を出すところは何なんでしょうか。
その後ジャコのベースもジョニに反応して、ニワトリっぽいフレーズを返して、ここだけしっかり反応しています。
それまでお互いに協調性のない演奏をしていたのに、そこだけ合わせるんかいと思いました。
才人同士の気の合わせ方は凡人には理解不能です。
5位「Big Yellow Taxi」(アルバム:Ladies of the Canyon)
■曲名:Big Yellow Taxi
■曲名邦題:ビッグ・イエロー・タクシー
■アルバム名:Ladies of the Canyon
■アルバム名邦題:レディズ・オブ・ザ・キャニオン
■動画リンク:「Big Yellow Taxi」
このアルバムは全体にしっとりした曲が多いのですが、この曲は異色のアップテンポナンバーです。
ボブ・ディラン(Bob Dylan)が「ディラン(Dylan)」というアルバムでカバーしたことでも有名です。
また日本では、羊毛とおはながカバーしているようです。
ミルト・ホーランド(Milt Holland)のパーカッションが、ユーモラスな効果を上げていて、この曲のストレンジな要素を強めています。
曲の最後でいたずらをした子供のように笑う気ままなジョニはここでも健在です。
そのストレンジな感覚が少しヒッピーっぽい曲だと思ったら、この曲は環境問題をテーマにした曲のようです。
当時からヒッピーは環境問題に敏感ですからね。
私は彼女のしっとりした曲も好きですが、こういう明るめでポップな曲と半々だったらいいのにと、常々思っていました。
それだったら自分でそういう曲を集めてしまえと思い、この度ランキングを作成しました。
ファーストアルバムの「ジョニ・ミッチェル(Song to a Seagull)」以外では、こういうアップテンポの曲が必ず含まれています。
今回ランキングに漏れた「バラにおくる(For the Roses)」にも「恋するラジオ(You Turn Me On, I’m a Radio)」などそういう曲が含まれています。
興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。
6位「Help Me」(アルバム:Court and Spark)
■曲名:Help Me
■曲名邦題:ヘルプ・ミー
■アルバム名:Court and Spark
■アルバム名邦題:コート・アンド・スパーク
■動画リンク:「Help Me」
この曲はポップ路線のアルバム「Court and Spark」からの選曲です。
ジョニはカナダ出身のアーティストなので、カナダチャートということになりますが、この曲は6位まで上昇していています。
彼女の最大のシングルヒットです。
「Help Me」という曲名から、何事かと思われるかもしれません。
歌詞は「私は再び恋に堕ちようとしている。そうなると私はクレイジーになるだろう。私はあまりに早く恋に落ちてしまうから」という内容です。
恋多き女ならではの歌詞ですね。
彼女の恋愛遍歴を見ると、相手はイケメンばかりで、しかも音楽的才能を兼ね備えている人ばかりです。
難易度の高い男を次々に落としているジョニは、それほど美人で魅力的な人なのかと思うかもしれません。
この人はジャケットで損をしています。
あまり良く映っているジャケットがありません。
この曲の動画を見ていただくと、表情が魅力的な人のような気がします。
特に2:42のところのジョニの笑顔が、とてもすばらしいと思います。
7位「The Jungle Line」(アルバム:The Hissing of Summer Lawns)
■曲名:The Jungle Line
■曲名邦題:ジャングル・ライン
■アルバム名:The Hissing of Summer Lawns
■アルバム名邦題:夏草の誘い
■動画リンク:「The Jungle Line」
さて前作「Court and Spark」で大ヒットを記録したジョニですが、その大ヒット路線は1作だけで終わらせてしまいます。
普通は大ヒットしたら、とりあえず同じ路線で継続するものです。
1作だけであっさりとスルーしたジョニですが、代わりに次のアルバムでは、こういう曲をやってくれています。
なにやら歓声が入っていたり、アフリカっぽいドラムが入っています。
このドラムはアフリカのブルンジのドラムらしいです。
彼女はこのアフリカンテイストが気に入ったらしく、次のアルバムでもこういう曲をやっています。
ポール・サイモン(Paul Simon)の「リズム・オブ・ザ・セインツ(The Rhythm of the Saints)」あたりを思い出す人もいるかもしれません。
もしくはこのダークな感じは、スザンヌ・ヴェガ(Suzanne Vega)がミッチェル・フルーム(Mitchell Froom)のプロデュースで「微熱(99.9F)」を発表した時の衝撃に近いものがあります。
ただ元々彼女にはどことなくストレンジな面がありました。
スローでフォーキーな曲でも、ギターのチューニングはかなりおかしいですからね。
今回こういうアップテンポを多めに集めて聞きなおしてみても、あらためて少し変わったところがあるなと思いました。
あのプリンス(Prince)はジョニのファンみたいですが、どちらもストレンジな人という共通点があります。
8位「Chelsea Morning」(アルバム:Clouds)
■曲名:Chelsea Morning
■曲名邦題:チェルシーの朝
■アルバム名:Clouds
■アルバム名邦題:青春の光と影
■動画リンク:「Chelsea Morning」
このアルバムではダントツで「青春の光と影(Both Sides, Now)」という曲が有名です。
彼女の代表作ともいえる曲で、おそらく彼女の曲の中でも1番か2番目ぐらいにカバーされていると思います。
しかし私はこちらの曲の方が好みです。
ファーストアルバムには、こういうポップな曲が入っていませんでした。
この曲はおそらくシングルカットを意識して書いた曲ではないかと思われます。
曲調としてはクセのないフォークロックという感じの曲です。
曲名「チェルシーの朝」とありますが、チェルシーとは彼女の思い出の場所です。
彼女はジョニ・アンダーソンという名前でフォークシンガーとして活動していましたが、最初の結婚と離婚を経験し、それからニューヨークのチェルシーに移り住みました。
この曲には「私たちは現在形で話しましょう」という一節があります。
心機一転都会で音楽の道にまっすぐ進もうという彼女の気持ちが出ている曲かもしれません。
9位「Car on a Hill」(アルバム:Court and Spark)
■曲名:Car on a Hill
■曲名邦題:丘の上の車
■アルバム名:Court and Spark
■アルバム名邦題:コート・アンド・スパーク
■動画リンク:「Car on a Hill」
このアルバムはジョニの転機になったアルバムです。
前作ぐらいから兆候がうかがえていましたが、このアルバムでは完全なるシティポップに仕上がっています。
バックの人材も当時売れっ子だったフュージョン系の新進気鋭のプレイヤーをずらりとそろえました。
まずトム・スコット(Tom Scott)、そしてラリー・カールトン(Larry Carlton)、ウィルトン・フェルダー(Wilton Felder)、ジョー・サンプル(Joe Sample)などのクルセイダーズ(The Crusaders)勢も参加しています。
この曲はあまり触れられる機会が多くありませんが、なかなか良い曲だと思っています。
まずイントロからいかにもフュージョン系の演奏がはじまります。
これまでのフォーキーだった演奏から、演奏が急に洗練されたものになっています。
彼女が書く曲も、湿り気のない軽やかな雰囲気を持つ曲が増えています。
ジョニの代表作として取り上げられることが多いアルバムですし、実際にこのアルバムはカナダのチャートでも1位を獲得しています。
しかし彼女はこの路線をあっさりと捨て去ります。
次作からはジャコ・パストリアスと組んで、より自由でアヴァンギャルドな音づくりに移行しています。
10位「The Dry Cleaner from Des Moines」(アルバム:Mingus)
■曲名:The Dry Cleaner from Des Moines
■曲名邦題:デ・モインのおしゃれ賭博師
■アルバム名:Mingus
■アルバム名邦題:ミンガス
■動画リンク:「The Dry Cleaner from Des Moines」
このアルバムはジャズの巨人チャールズ・ミンガス(Charles Mingus)に捧げられています。
アルバム名からして「Mingus」ですしね。
ミンガスの豊かで骨太な音楽は私も大好きですので、いずれランキングを作成したいと思っています。
「Court and Spark」でも「トゥイステッド(Twisted)」というジャズナンバーが取り上げられていました。
この曲もその系譜です。
ジャズ寄りになり過ぎずに、あくまで自分のスタンスを崩さずに歌っていて、ジャズとポップスの中間をうまく表現しています。
この曲でもジャコがボーカルにからみまくっています。
ちなみに恋多き女ジョニは、この時ジャコと交際していました。
めまぐるしく交際相手を変えてきたジョニにしては、珍しく長い年月に渡る交際となりました。
ジャコとのパートナーシップは次作のライブアルバム「シャドウズ・アンド・ライト(Shadows and Light)」で頂点に達した感があります。
しかしその次の「ワイルド・シングス・ラン・ファスト(Wild Things Run Fast)」では、クレジットにジャコの名前はありませんでした。
おそらく2人の関係が終わったものと思われます。
この時代を恋と音楽に精一杯生きてきたジョニは、我々に豊かな成果を沢山残してくれました。
私はとても感謝したいと思っています。
番外編「The Circle Game」(アルバム:Ladies of the Canyon)
■曲名:The Circle Game
■曲名邦題:サークル・ゲーム
■アルバム名:Ladies of the Canyon
■アルバム名邦題:レディズ・オブ・ザ・キャニオン
■動画リンク:「The Circle Game」
さて最後にランキング外で、フォーキーでしっとりした曲もとりあげてみたいと思います。
私はフォーキーな曲を軽視しているわけではありません。
彼女にはすぐれたボーカリストとしての一面があります。
もし彼女の声の美しさを味わうとしたら、こういう曲が一番いいと思っています。
たとえばこの曲なんかは、コーラスを従えて歌うジョニの声の美しいことといったら、言葉がありません。
彼女は初期に他人にカバーされる曲を数多く書いたソングライターとしても有名です。
ソングライターとしては、比較的ゆっくり目のフォーキーな曲を得意としていました。
この曲以外では、Crosby, Stills, Nash & Youngにカバーされた「ウッドストック(Woodstock)」という曲なども有名です。
中でも私が一番好きな曲がこの曲です。
もしスローなジョニの曲を集めたランキングを作成したら、この曲が1位になりそうです。
もしこういう曲も悪くないと感じたら、アルバム単位で聞いてみてはいかがでしょうか。
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