今回はフリッパーズ・ギターを取り上げます。
Cornelius(コーネリアス)の小山田圭吾と小沢健二の2人組のバンドです。
もしかしたら2人のことを知っていても、フリッパーズ・ギターのことをご存じない方もいらっしゃるかもしれません。
そういう方に向けてフリッパーズ・ギターを知るきっかけになればと思い、この度取り上げてみました。
彼らは最初から才能が際立っていました。
才能に恵まれた人の初期とはどういうものか、そういう観点から聞いていただければと思います。
- 1 1位「グルーヴ・チューブ」(アルバム:ヘッド博士の世界塔)
- 2 2位「恋とマシンガン」(アルバム:カメラ・トーク)
- 3 3位「さようならパステルズ・バッヂ」(アルバム:海へ行くつもりじゃなかった)
- 4 4位「星の彼方へ」(アルバム:ヘッド博士の世界塔)
- 5 5位「バスルームで髪を切る100の方法」(アルバム:カメラ・トーク)
- 6 6位「カメラ!カメラ!カメラ!」(アルバム:シングルス)
- 7 7位「ゴーイング・ゼロ」(アルバム:ヘッド博士の世界塔)
- 8 8位「コーヒーミルク・クレイジー」(アルバム:海へ行くつもりじゃなかった)
- 9 9位「ピクニックには早すぎる」(アルバム:海へ行くつもりじゃなかった)
- 10 10位「全ての言葉はさよなら」(アルバム:カメラ・トーク)
- 11 番外編「ドルフィン・ソング」(アルバム:ヘッド博士の世界塔)
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1位「グルーヴ・チューブ」(アルバム:ヘッド博士の世界塔)
■曲名:GROOVE TUBE
■曲名邦題:グルーヴ・チューブ
■アルバム名:DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER
■アルバム名邦題:ヘッド博士の世界塔
■動画リンク:「グルーヴ・チューブ」
彼らの代表曲です。
この曲は渋谷系音楽のスタート地点であり頂点ともいえる曲です。
このアルバムでは、ダンスミュージックを大胆に導入したことで反響を呼びました。
以前このアルバムはプライマル・スクリーム(Primal Scream)の「スクリーマデリカ(Screamadelica)」の影響下にあるというディスクレビューを読んだことがあります。
確かに共通点もありますが、それは事実ではないかもしれません。
なぜならこのフリッパーズ・ギターのアルバムの方が、先にリリースされているからです。
このアルバムは1991年7月発売で、スクリーマデリカは1991年9月発売です。
ただプライマル・スクリームは既に1990年に発売されたシングル「ローデッド(Loaded)」で、新しい音楽性を示していました。
「ローデッド(Loaded)」は、当時最先端のレイヴ・カルチャーの影響下にあって、先見性のある人はクラブ・カルチャーの影響を取り入れていました。
フリッパーズ・ギターも同じ時代の中で、プライマル・スクリームと一緒に先頭を歩いていたと言った方がいいかもしれません。
日本ではこの人たちが先頭を歩いていましたね。
時代を先導した名曲です。
2位「恋とマシンガン」(アルバム:カメラ・トーク)
■曲名:Young, Alive, in Love
■曲名邦題:恋とマシンガン
■アルバム名:CAMERA TALK
■アルバム名邦題:カメラ・トーク
■動画リンク:「恋とマシンガン」
このアルバムの頃から彼らは一般的な人気を獲得し始めていました。
この曲は様々なタイアップに駆り出されました。
テレビドラマの「予備校ブギ」の主題歌、日産マーチのCM曲、「あさチャン!」というワイドショーのテーマ曲にもなりました。
時代はバブル真っ盛りで、彼らは一躍時代の寵児になろうとしていました。
この曲は渋谷系音楽で多用される軽快なスキャットから始まります。
途中に入る映画音楽風の女性コーラス、ビブラフォンやホーンの使い方などどれも、完全無欠のおしゃれな音楽でした。
ビブラフォンがカクテルっぽい音色であったり、ギターもまるでウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)のようです。
情報量があまりに多い音楽ですが、その様々な要素がきちんと整理して盛り込まれています。
この曲がリリースされた頃、彼らはまだ21・22歳ぐらいでした。
音楽的な処理能力があまりに高い、おそるべき才能の若手ミュージシャンだったのですね。
3位「さようならパステルズ・バッヂ」(アルバム:海へ行くつもりじゃなかった)
■曲名:Goodbye, our Pastels Badges
■曲名邦題:さようならパステルズ・バッヂ
■アルバム名:three cheers for our side
■アルバム名邦題:海へ行くつもりじゃなかった
■動画リンク:「さようならパステルズ・バッヂ」
ファーストアルバムからの選曲です。
彼らは1990年頃から本格的にブレークしたので、この頃はまだそれほど知られていませんでした。
ベスト盤でもファーストアルバムの曲は冷遇されがちのように思います。
この曲はシングルカットされていません。
しかしいかがでしょうか。本当にすばらしい曲です。
ちなみに曲名のパステルズ(The Pastels)とは、イギリスのインディポップバンドで、私も大好きです。
この時期の彼らは、イギリスのマイナーレーベルから出ているシングルを聞き漁っていたそうですが、やっている音楽にも表れています。
しかし曲名に「さよなら」とありますね。
歌詞は「アノラックからバッヂを取って、引き出しにしまってしまおう。しかしそのフィーリングは決して忘れない」という内容です。
アノラックとは、パステルズのメンバーが良く着ていた服のことで、そういうヘタウマな音楽性を持った一連の音楽を「アノラック・サウンド」と言ったりもします。
そういう非商業主義にさよならしようということなんでしょう。
プロデビューに際して、彼らの決意がうかがえる曲です。
しかしその自由な精神は忘れないということですから、その後の彼らの音楽的変遷を予言する曲といえるかもしれません。
4位「星の彼方へ」(アルバム:ヘッド博士の世界塔)
■曲名:BLUE SHININ’ QUICK STAR
■曲名邦題:星の彼方へ
■アルバム名:DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER
■アルバム名邦題:ヘッド博士の世界塔
■動画リンク:「星の彼方へ」
これも「ヘッド博士の世界塔」からの選曲です。
この曲もダンスミュージック寄りの曲です。
まずイントロのギターの音色がたまりません。
先程のファーストアルバムの曲と比べると、リズムのアプローチがかなり異なっていることが分かると思います。
ちなみに先程のファーストアルバムは1989年8月25日発売、このアルバムは1991年7月10日です。
つまり2年も経過していません。それなのに、これほどまでにサウンドが変化しています。
この曲名は直訳で「青く輝く素早く動く星」となるかもしれませんが、これは自分たちのことじゃないかと思ったりもします。
彼らは猫のように気まぐれにこの短い時代を、めまぐるしく音楽性を変えながら、リスナーを振り回してきたのですね。
思えばデヴィッド・ボウイ(David Bowie)も、レディオヘッド(Radiohead)も、随分我々を振り回してくれました。
音楽的野心を持ったアーティストに振り回されることは、リスナーにとって幸せなことかもしれません。
5位「バスルームで髪を切る100の方法」(アルバム:カメラ・トーク)
■曲名:Haircut 100
■曲名邦題:バスルームで髪を切る100の方法
■アルバム名:CAMERA TALK
■アルバム名邦題:カメラ・トーク
■動画リンク:「バスルームで髪を切る100の方法」
セカンドアルバムからの選曲です。
彼らはデビュー時は5人グループだったことは、ご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。
ファーストアルバムは、2人組ではなかったのですね。
しかしセカンドアルバムでは、メンバーが2人だけになって、演奏にプロのミュージシャンが入ってきました。
脱退したメンバーには申し訳ありませんが、これが商業的に彼らが飛躍するきっかけになったかもしれません。
なぜなら彼らの音楽は、多彩なアレンジを必要としていました。
この頃から彼らの音楽は注目度が上がってきましたが、その人気を支えていたのは多彩なアレンジと演奏力です。
この曲でもイントロのワウが入っているギター、曲の間中ずっと鳴り響いてるオルガンの使い方、要所でのホーンの使い方、どれも完璧です。
彼らが時代の寵児になるのに必要なスキがなく完成度の高い曲です。
6位「カメラ!カメラ!カメラ!」(アルバム:シングルス)
■曲名:Camera! Camera! Camera!
■曲名邦題:カメラ!カメラ!カメラ!
■アルバム名:Singles
■アルバム名邦題:シングルス
■動画リンク:「カメラ!カメラ!カメラ!」
この曲もセカンドアルバムからの曲ですが、ファーストアルバムのようなネオアコ風味が感じられます。
彼らはネオアコと呼ばれる音楽の影響を受けています。
彼らのバンド名はオレンジ・ジュース(Orange Juice)というネオアコバンドのアルバムジャケットから取られているぐらいです。
そもそも彼らはそのオレンジ・ジュースのアルバムを再発させることが目的でバンド活動していると公言していました。
もちろん真に受ける必要はないと思いますが。
当時のネオアコの名盤を買うと「ネオアコ通信」という、彼らが好きなネオアコースティックのアルバムを紹介する小冊子が入っていたものです。
うろおぼえですが、確か当時彼らはオレンジ・ジュースのようなベースラインが躍動したネオアコが好きだというような発言していたように記憶しています。
この曲なんかは、まさしくそういう感じです。
バンド名とか、小冊子とか、そういうネオアコ愛みたいなものを感じさせてくれる曲です。
7位「ゴーイング・ゼロ」(アルバム:ヘッド博士の世界塔)
■曲名:GOING ZERO
■曲名邦題:ゴーイング・ゼロ
■アルバム名:DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER
■アルバム名邦題:ヘッド博士の世界塔
■動画リンク:「ゴーイング・ゼロ」
彼らは渋谷系音楽と言われています。
ただウィキペディアによると渋谷系という言葉が定着したのは、彼らが解散した後だそうです。
もちろん渋谷系音楽みたいなものはその前から存在していて、後から名付けたということではないかと思います。
渋谷系音楽の特徴の1つは、深い音楽的知識を持った人が、様々な音楽的意匠をつぎはぎする編集感覚があることです。
例えばこの曲のイントロのスパイ映画のようなモチーフとか、ジャンクなモンドミュージックのような効果音の使い方、大胆なダンスビート、ギターの音響処理など、今でも目を見張るものがあります。
また彼らがこのアルバムでつくり出した価値観は、岡崎京子の「リバーズ・エッジ」のような漫画にも影響を与えています。
「リバーズ・エッジ」では、モンキーズ(The Monkees)の「ヘッド(Head)」というスカムでジャンクなアルバムが登場しています。
重要な登場人物が、欲しかったアルバムとして描かれています。
あんなジャンクでおもしろアルバムが登場する価値観も、フリッパーズ・ギター後ならではという感じがします。
8位「コーヒーミルク・クレイジー」(アルバム:海へ行くつもりじゃなかった)
■曲名:Coffee-milk Crazy
■曲名邦題:コーヒーミルク・クレイジー
■アルバム名:three cheers for our side
■アルバム名邦題:海へ行くつもりじゃなかった
■動画リンク:「コーヒーミルク・クレイジー」
彼らの音楽を最初に聞いた時、私は完成度の高さに驚きました。
後にイギリスのサラ・レコード(Sarah Records)なども聞いていた私は、日本でここまでの質の高い音楽があることに驚愕しました。
ファーストアルバムでは、全曲英語で歌われていましたが、もうそれだけですごいと思っていましたしね。
今回久しぶりに聞きなおすと、やはり次作の隙のなさに比べると、まだ青くさいところが残っているように思いました。
しかしこの曲のようにネオアコに少しジャズっぽい要素が混じっている曲は、背伸びをした大人風な感じがして、青くささが逆に好ましいように思いました。
この曲はスタイル・カウンシル (The Style Council)やエヴリシング・バット・ザ・ガール(Everything But the Girl)経由のジャズっぽさが隠し味として使われています。
確か当時のインタビューで、本物のジャズよりも、エブリシング・バッド・ザ・ガールがやっているような少しフェイクなジャズの方がいいみたいなことを言っていました。
当時ジャズを深く掘り進んでいた私は、そうした発言をいかがなものかと思って読んでいました。
ただ今この曲などを聞くと、それほど悪くありませんね。
私の中では再評価が著しい曲です。
9位「ピクニックには早すぎる」(アルバム:海へ行くつもりじゃなかった)
■曲名:Happy Like a Honeybee
■曲名邦題:ピクニックには早すぎる
■アルバム名:three cheers for our side
■アルバム名邦題:海へ行くつもりじゃなかった
■動画リンク:「ピクニックには早すぎる」
この曲はブルーベルズ(The Bluebells)とかフレンズ・アゲイン(Friends Again)のようなバンドを参考にしていると思われます。
というより露骨なぐらいです。
彼らはその後どちらも活躍しているので、フリッパーズ・ギター時代も同格だったように思うかもしれません。
しかしこの頃の作曲能力は、小山田圭吾の方が上回っていたと思います。
今回取り上げたファーストアルバムの曲は、全て小山田圭吾の作曲です。
小山田圭吾の方が1歳年下ですから、かなり早熟だったのですね。
ファーストアルバムは5人組グループでしたが、そもそも小山田圭吾のバンドに、後から小沢健二が加入したという流れです。
ビートルズも初期はポール・マッカートニー(Paul McCartney)よりも、ジョン・レノン(John Lennon)の曲の方が良い曲を書いていたように思いますが、それと似ています。
小沢健二が台頭するのは、セカンドアルバムからです。
なにせ「恋とマシンガン」を書きましたからね。
「カメラ!カメラ!カメラ!」は小沢健二、「バスルームで髪を切る100の方法」は小山田圭吾の作曲です。
この時期彼らは競い合うように良い曲を書いていました。
10位「全ての言葉はさよなら」(アルバム:カメラ・トーク)
■曲名:Camera Full of Kisses
■曲名邦題:全ての言葉はさよなら
■アルバム名:CAMERA TALK
■アルバム名邦題:カメラ・トーク
■動画リンク:「全ての言葉はさよなら」
セカンドアルバムはファーストアルバムからみると、歌詞が大きく変わりました。
ファーストでは全曲英語の歌詞でしたが、日本語の歌詞に変わりました。
しかし歌詞の内容は、一筋縄ではいかないものが多いです。
たとえばこの曲でも、笑ったりしゃべったり恋をしたとしてもさよならしようとか、分かり合えないことを分かり合えたとか、全然ロマンティックな歌詞ではありません。
甘さを増量したようなロマンティックなこの曲に、アンチロマンティックともいえる歌詞をねじ込んでくるあたり、彼らの中二病的な資質が表れています。
一筋縄ではいかない歌詞とメロディとのミスマッチは、この後キリンジが受け継ぎましたね。
キリンジの場合は影響を受けたというより、彼ら自身の本質としか言いようがない感じですが。
この曲は小沢健二の作詞作曲した曲です。
もしかしたら精神的に荒れていた時期ではないかと推察されます。
その後小沢健二はソロデビューして、大大大大傑作である「犬は吠えるがキャラバンは進む」を発表します。
そのアルバムでは、よりストレートに自分の気持ちを表現する方向へと揺り戻しています。
番外編「ドルフィン・ソング」(アルバム:ヘッド博士の世界塔)
■曲名:DOLPHIN SONG
■曲名邦題:ドルフィン・ソング
■アルバム名:DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER
■アルバム名邦題:ヘッド博士の世界塔
■動画リンク:「ドルフィン・ソング」
この曲は、少し特別な曲です。
順位をつけにくいのですが、この曲を外したランキングが可能かといったら、やはり無理だと思いました。
そこで番外編として取り上げることにしました。
彼らは膨大な音楽の知識を断片を、まるでアナグラムのように様々な形で曲にちりばめています。
中にはその引用をパクリと言う人もいます。
もちろんそうした意見は彼らの耳にも入ってきていたでしょう。
この曲はそれらの意見に対する、彼らなりの回答だと思います。
イントロからビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)の「神のみぞ知る(God Only Knows)」のコーラスを、これでもかってぐらい分かりやすく引用しています。
間のストレンジなコーラスの使い方も、完全にスマイル時代のビーチ・ボーイズの影響を感じさせてくれます。
しかしそれにもかかわらず、彼らにした表現できないオリジナルな音楽をつくりあげています。
堂々とパクりだと示しておいて、しかしその引用手法によってオリジナリティを表現するとか、狙いが高度すぎて乾いた笑いしか出てきません。
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