今回はドナルド・バードのランキングを作成しました。
この記事ではジャズとジャズ・ファンクという2つのジャンルの曲をご紹介しました。
それぞれ5曲ずつ、リリース順でご紹介しています。
彼の全体像を把握したり、変化の過程を追体験できるようにしてみました。
- 1 1位「Lover Come Back to Me」(アルバム:Off to the Races)
- 2 2位「My Girl Shirl」(アルバム:Byrd in Flight)
- 3 3位「Bup A Loup」(アルバム:Fuego)
- 4 4位「Low Life」(アルバム:Fuego)
- 5 5位「I’m a Fool to Want You」(アルバム:Royal Flush)
- 6 6位「The Emperor」(アルバム:Ethiopian Knights)
- 7 7位「Where Are We Going?」(アルバム:Black Byrd)
- 8 8位「Woman Of The World」(アルバム:Street Lady)
- 9 9位「Think Twice(feat. Kay Haith)」(アルバム:Stepping into Tomorrow)
- 10 10位「You And The Music」(アルバム:Places and Spaces)
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1位「Lover Come Back to Me」(アルバム:Off to the Races)
■曲名:Lover Come Back to Me
■曲名邦題:恋人よ我に帰れ
■アルバム名:Off to the Races
■アルバム名邦題:オフ・トゥ・ザ・レーシス
■動画リンク:「Lover Come Back to Me」
初期の彼はクリフォード・ブラウン(Clifford Brown)直系のトランぺッターでした。
クリフォード・ブラウンをご存じない方には、以下の記事をどうぞ。
クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)の名曲名盤10選
ただ当時の彼はワンホーンではなく、二管・三管編成が多かったように思います。
特にこの時期はバリントン・サックス奏者ペッパー・アダムス(Pepper Adams)とグループを組んでいました。
高音域のトランペットとの二管の相性では、通常テナー・サックスあたりが最適かもしれません。
一方バリントン・サックスはテナーサックスに比べても音域が低いので、トランペットとはかなり音域違いますし、ハーモニーが成立しにくいかもしれません。
ただでさえクリフォード・ブラウン系のトランぺット奏者は、高音域が得意なプレイヤーが多いですし。
ジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)とチェット・ベイカ(Chet Baker)などの一部例外はありますが、一般的とは言えません。
たとえばフルートとバス・クラリネットの組み合わせを想像すると、イメージしやすいと思いますが。
バリントン奏者との共演はハーモニーだけではなく、ソロ演奏時の対比と考えていた形跡があります。
そういえば上記ジェリー・マリガンの時もバリントン・サックスとトランペットが対位法的な使われ方をしていました。
2位「My Girl Shirl」(アルバム:Byrd in Flight)
■曲名:My Girl Shirl
■曲名邦題:マイ・ガール・シャール
■アルバム名:Byrd in Flight
■アルバム名邦題:バード・イン・フライト
■動画リンク:「My Girl Shirl」
ハードバップ期の彼は、以下の三作が人気です。
1.「オフ・トゥ・ザ・レーシス(Off to the Races)」
2.「バード・イン・ハンド(Byrd in Hand)」
3.「フュエゴ(Fuego)」
この記事では1と3からは選曲しましたが、2からはご紹介しませんでした。
その代り上記3作の陰に隠れがちな「Byrd in Flight」から、この「My Girl Shirl」をご紹介しました。
ちなみに「Byrd in Hand」では、以下の曲がおすすめです。
しかしこれほどジャズらしい演奏をしていたのに、後にガラリと音楽性を変えるのは驚きです。
3位「Bup A Loup」(アルバム:Fuego)
■曲名:Bup A Loup
■曲名邦題:バップ・ア・ループ
■アルバム名:Fuego
■アルバム名邦題:フュエゴ
■動画リンク:「Bup A Loup」
このアルバムは、ハードバップ期の最高傑作と言われています。
ただこのアルバムは純粋なハードバップとは、少し違っているかもしれません。
この路線はソウルフルとかファンキーと言われていますが、私はゴスペルっぽいと感じます。
こうしたジャズは、硬派のジャズ・ファンからは軽く扱われがちかもしれません。
しかしこの作品はアート・ブレイキー(Art Blakey)の「モーニン(Moanin’)」にも似た分かりやすさがあって、ジャズ名盤としての地位を確立しています。
またこの曲では、ジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)の演奏が聞きもの。
39秒から始まるマクリーンの出だしから快調ですし、その後のソロ演奏も聞きごたえがあります。
ドナルド・バードは同じ系譜のリー・モーガン(Lee Morgan)に比べて派手さこそありませんが、その分ムラが少なくツボを押さえた演奏が魅力です。
4位「Low Life」(アルバム:Fuego)
■曲名:Low Life
■曲名邦題:ロウ・ライフ
■アルバム名:Fuego
■アルバム名邦題:フュエゴ
■動画リンク:「Low Life」
彼は作曲面でも才能を発揮しました。
このアルバムは全曲彼が書いていますが、どれもすばらしい曲ばかり。
中でもこの曲のテーマは、アルバムでも1.2争うほど印象的です。
ロックではよくフックのあるメロディみたいな言い方をしますが、それに近い世界かもしれません。
しかもテーマ部では、マクリーンとのハーモニーがすばらしすぎます。
私は以下の記事の中で、マクリーンは個人競技ではなく集団競技向きだと書きました。
ジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)の名曲名盤10選
同じことはドナルド・バードにもいえます。
ただマクリーンは誰かに活かされるタイプで、ドナルド・バードは誰かを活かすタイプかもしれません。
5位「I’m a Fool to Want You」(アルバム:Royal Flush)
■曲名:I’m a Fool to Want You
■曲名邦題:アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー
■アルバム名:Royal Flush
■アルバム名邦題:ロイヤル・フラッシュ
■動画リンク:「I’m a Fool to Want You」
あまり言及されることはありませんが、彼にはバラードの名演が少なくありません。
「ハーフノートのドナルド・バード Vol.1(At the Half Note Cafe Volume 1)」から、バラードの名演をもう1曲挙げておきましょう。
Donald Byrd – Portrait of Jennie
演奏そのものでは「Portrait of Jennie」の方が良いかもしれません。
しかし「I’m a Fool to Want You」の方はより赤裸々で、刺さる感じが気に入っています。
さてこの人のトランペットについて、いつも思うことがあります。
彼の演奏は知的にコントロールされていて、派手さや意外性は感じません。
ブチ切れていたり命を削るような演奏をする人でもありませんし。
しかしその分知的な抑制やバランス感覚、良い意味での中庸さがあります。
6位「The Emperor」(アルバム:Ethiopian Knights)
■曲名:The Emperor
■曲名邦題:ジ・エンペラー
■アルバム名:Ethiopian Knights
■アルバム名邦題:エチオピアン・ナイツ
■動画リンク:「The Emperor」
ここから音楽性がガラリと変わります。
マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の「ビッチェズ・ブリュー(Bitches Brew) 」を思わせる、エレクトリック・サウンドに変化しました。
ただ昔から彼はこういう音楽をやる気配を漂わせていました。
たとえば以下の曲には、その萌芽を感じます。
Donald Byrd & Kenny Burrell – Flickers
また1964年の異色作「ア・ニュー・パースペクティヴ(A New Perspective)」を経て、1970年には決定打となる「ファンシー・フリー(Fancy Free)」を発表しました。
そのアルバムから1曲ご紹介します。
この曲からの急激な変化に驚かれるかもしれませんが、予兆はあったと思います。
そのミッシング・リンクを埋めるため、文中で上記2曲をご紹介しました。
7位「Where Are We Going?」(アルバム:Black Byrd)
■曲名:Where Are We Going?
■曲名邦題:ホエア・アー・ウィ・ゴーイング?
■アルバム名:Black Byrd
■アルバム名邦題:ブラック・バード
■動画リンク:「Where Are We Going?」
この頃は完全にフュージョン、ジャズ・ファンクに移行しています。
この変化については、ジャズ・ファンからあまり評判が良くないかもしれません。
硬派のジャズ好きからは売れ線に走ったと言われたり、黙殺されることも少なくありません。
確かにこのアルバムは大ヒットしましたが、当時の彼は経済的に困っていませんでした。
前年彼は名門コロンビア大学で博士号を取得し、翌年には様々な大学で教職に就きました。
つまり経済的には売れ線に走るモチベーションがありません。
ただやりたい音楽をやっただけだと思われます。
今作でドナルド・バードはマイゼル兄弟(Mizell Brothers)と組んで、ジャズとは異なるジャズ・ファンクにシフトしました。
ジャズ・ファンクは「ジャズ」と付いていても、ジャズとは別物と考えた方がいいかもしれません。
8位「Woman Of The World」(アルバム:Street Lady)
■曲名:Woman Of The World
■曲名邦題:ウーマン・オブ・ザ・ワールド
■アルバム名:Street Lady
■アルバム名邦題:ストリート・レディ
■動画リンク:「Woman Of The World」
前作同様このアルバムも、マイゼル兄弟のスカイ・ハイ・プロダクション(Sky High Production)からリリースされました。
このアルバムでは、以下の曲がレア・グルーヴ界隈で人気です。
Donald Byrd – Lansana’s Priestess
この頃は参加プレイヤーもクロスオーヴァー系中心に変わりました。
主だった人を挙げると、デイヴィッド・T・ウォーカー(David T. Walker)、チャック・レイニー(Chuck Rainey)、ハーヴィー・メイソン(Harvey Mason)。
ただドナルド・バードを含めて、彼らはジャズを出自とする人ばかりです。
昔の漫画家は文学の素養があって漫画を書いたが、現代の漫画家は漫画だけ読んで書いていると苦言を呈した文章を読んだことがあります。
当時私は一概にそうは決めつけるのはどうかと思っていましたが。
しかしそんな私も近年のスムース・ジャズを聞くと、同じように感じることがあります。
やはりジャズを通過しておいた方がいいのではと。
9位「Think Twice(feat. Kay Haith)」(アルバム:Stepping into Tomorrow)
■曲名:Think Twice(feat. Kay Haith)
■曲名邦題:シンク・トゥワイス(feat. ケイ・ハイス)
■アルバム名:Stepping into Tomorrow
■アルバム名邦題:ステッピン・イントゥ・トゥモロー
■動画リンク:「Think Twice(feat. Kay Haith)」
この頃になってくると、トランぺット奏者としての役割が重要ではなくなっているかもしれません。
また曲もあまり書いていませんし。
サウンド・プロダクションはマイゼル兄弟主導だったと思われます。
なぜそう思うかというと、マイゼル兄弟が手掛けた他のアーティストとほぼ同じサウンドですから。
この頃のドナルド・バードがどの程度作品に関与していたか、私にはいま一つ見えてきません。
ちなみにこの作品がリリースされた1974年、彼はハワード大学の教え子とブラックバーズ(BlackByrds)を結成しました。
彼は想像以上に教職者だったのかもしれません。
それが影響しているのか分かりませんが、彼の音楽は記名性が薄く、それゆえこうした匿名路線でも大成功しました。
10位「You And The Music」(アルバム:Places and Spaces)
■曲名:You And The Music
■曲名邦題:ユー・アンド・ミュージック
■アルバム名:Places and Spaces
■アルバム名邦題:プレイシズ・アンド・スペイシズ
■動画リンク:「You And The Music」
このアルバムはマイゼル兄弟と組んだ最終作です。
最期にその後の活動について、少し触れておきましょう。
彼は1980年代初頭までは、コンスタントにアルバムを発表していました。
しかし1990年以降は1作のみで、1991年にリリースされたそのアルバムが最終作となりました。
ただその頃から彼の音楽は、HIPHOPでよくサンプリングされるようになりました。
この曲も以下の曲でサンプリングされています。
後半生の彼はミュージシャンというより教育者でした。
そもそもマイゼル兄弟も彼の教え子でしたし。
2013年2月4日彼は80歳で亡くなりました。
彼はジャズ、ジャズ・ファンク、HIPHOPの三分野においてレジェンドとして人生を終えました。
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