今回はクリフォード・ブラウンのランキングを作成しました。
これまで取り上げた他のジャズメンについては、ジャズファン以外にも受け入れられやすい曲をご紹介してきました。
しかしこの人の場合は、そういう曲はありません。
なにせクリフォードが亡くなったのは1956年で、まだロックも誕生して間もない頃です。
しかしこの人の演奏には、純度の高いジャズの魅力にあふれています。
ハードバップの魅力を存分にご堪能ください。
- 1 1位「Cherokee」(アルバム:Study in Brown)
- 2 2位「Joy Spring」(アルバム:Clifford Brown & Max Roach)
- 3 3位「Love Is a Many-Splendored Thing」(アルバム:Clifford Brown and Max Roach at Basin Street)
- 4 4位「Bellarosa」(アルバム:Memorial Album)
- 5 5位「Lover Come Back to Me」(アルバム:Memorial)
- 6 6位「Salute to the Band Box(Master Take)」(アルバム:Complete Paris Sessions Vol.2)
- 7 7位「I Get a Kick out of You」(アルバム:Brown and Roach Incorporated)
- 8 8位「Donna Lee」(アルバム:The Beginning and the End)
- 9 9位「Jordu」(アルバム:Max Roach and Clifford Brown In Concert)
- 10 10位「Move」(アルバム:Jam Session)
1位「Cherokee」(アルバム:Study in Brown)
■曲名:Cherokee
■曲名邦題:チェロキー
■アルバム名:Study in Brown
■アルバム名邦題:スタディ・イン・ブラウン
■動画リンク:「Cherokee」
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レイ・ノーブル(Ray Noble)が、チェロキー族のインディアンのメロディを借りて書いた曲です。
この曲は技術を披露する目的で取り上げられることが多いかもしれません。
チャーリー・パーカー(Charlie Parker)からジョン・マクラフリン(John McLaughlin)まで、腕自慢のプレイヤーに好まれています。
この曲はジャズ・トランペットでは他に、ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)の演奏がよく知られています。
ウィントンの演奏は、このクリフォードの演奏を参考にしていると思われます。
おそらくウィントンは、4:54からのところを参考にしたのでしょうね。
この曲の聞きどころは、1:17からのトランペットソロです。
ともすれば早い演奏は機械的な感じになってしまうことがありますが、ここでのクリフォードはとてもエモーショナルな演奏をしています。
またこの人の場合、速い演奏の中にもどこかしら余裕が感じられます。
それは優雅とさえいえるかもしれません。
クリフォードは技術的にもすぐれているけれど、技術のその先にもう一段の魅力があるプレイヤーだと思います。
2位「Joy Spring」(アルバム:Clifford Brown & Max Roach)
■曲名:Joy Spring
■曲名邦題:ジョイ・スプリング
■アルバム名:Clifford Brown & Max Roach
■アルバム名邦題:クリフォード・ブラウン & マックス・ローチ
■動画リンク:「Joy Spring」
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この頃はクリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテットという双頭バンドでした。
クリフォード以外のメンバーは、以下の通りです。
・マックス・ローチ(Max Roach):ドラム
・ジョージ・モロウ(George Morrow):ベース
・ハロルド・ランド(Harold Land):テナー・サックス
・リッチー・パウエル(Richie Powell):ピアノ
※バド・パウエルの弟
エマーシー・レコード(EmArcy Records)を代表するアルバムです。
名作ぞろいのエマーシーの諸作の中で、私はこのアルバムが一番好きです。
他にも「デライラ(Delilah)」「ダフード(Daahoud)」「パリジャン・ソロウフェア(Parisian Thoroughfare)」など、ほぼ同等の名演がそろっています。
1:45から当時まだ23歳のクリフォードのトランペットソロが始まりますが、実に聞きごたえのある演奏です。
一般的なクリフォードの演奏のイメージは、こういうミディアムテンポでのはつらつとした演奏だと思いますが、今回は意識的にそういう演奏を少なめにしました。
もしこういう演奏をもっと聞きたい方は、このアルバム1枚通して聞いていただくと、きっとご満足いただけることでしょう。
今回は先にこれぞクリフォードという演奏を聞いていただき、後の方でブチぎれた演奏をご用意してみました。
3位「Love Is a Many-Splendored Thing」(アルバム:Clifford Brown and Max Roach at Basin Street)
■曲名:Love Is a Many-Splendored Thing
■曲名邦題:慕情
■アルバム名:Clifford Brown and Max Roach at Basin Street
■アルバム名邦題:アット・ベイズン・ストリート
■動画リンク:「Love Is a Many-Splendored Thing」
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この曲は映画「慕情(Love Is a Many-Splendored Thing)」の主題歌です。
まず原曲のメロディの解釈が絶妙です。
31秒のところからトランペットソロが始まりますが、実にはつらつとした演奏ですね。
このアルバムではハロルド・ランドに代わって、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)がテナー・サックスを担当しています。
ロリンズは、このアルバムでは少し低調だと言われています。
こよなくロリンズを愛する私も、正直認めざるを得ません。
しかしこの当時ロリンズが引退生活をしていて、これが復活作ですから、少し大目に見ていただきたいと思います。
このアルバムは1956年1月と2月の録音ですが、同年6月ロリンズは大傑作「サキソフォン・コロッサス(Saxophone Colossus)」を吹き込み、完全復活を遂げることになります。
さてこのアルバムの話に戻すと、特に前半は強力な曲が多く「恋とは何でしょう(What Is This Thing Called Love?)」「四月の思い出(I’ll Remember April)」など、同等の名演が目白押しです。
ただ私の持っているCDでは、別テイクの「フロッシー・ルー(Flossie Lou)」が4曲連続入っていて、さすがに4曲連続はきつい。
私のこのアルバムに対する不満はそのぐらいです。
4位「Bellarosa」(アルバム:Memorial Album)
■曲名:Bellarosa
■曲名邦題:ベラローサ
■アルバム名:Memorial Album
■アルバム名邦題:メモリアル・アルバム
■動画リンク:「Bellarosa」
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先程取り上げた「Memorial」とまぎわらしいですが、「Memorial」はレーベルがプレスティッジ(Prestige)、「Memorial Album」はブルーノート(Blue Note)です。
どちらもブラウニーの死を受けて企画されたアルバムです。
この曲を選んだ理由はひとえに楽曲の良さで、エルモ・ホープ(Elmo Hope)の手によるものです。
楽天的な曲調は、抜けの良いトランペットとの相性が抜群に良いですね。
彼のトランペットの音色は、ブリリアントと評されます。
つまり音の張りがあるという意味なのですが、音色に艶があると言い換えてもいいかもしれません。
はちきれんばかりのこのポップな曲で、クリフォードの音色がひときわ輝いています。
演奏以前の問題として、トランペットの音色が輝いていること。
それはクリフォードの最大の武器かもしれません。
5位「Lover Come Back to Me」(アルバム:Memorial)
■曲名:Lover Come Back to Me
■曲名邦題:恋人よ我に帰れ
■アルバム名:メモリアル
■アルバム名邦題:Memorial
■動画リンク:「Lover Come Back to Me」
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今回はバラードを取り上げませんでした。
クリフォードには「クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス(Clifford Brown with Strings)」というバラード集がありますが、私はあまり好きではありません。
ストリングスが邪魔に思えてしまうからです。
演奏自体は良い出来ですが、いつものようなアドリブがないので、いささかおもしろみに欠けると思ってしまいます。
もちろん私の聞き込みが浅いだけかもしれませんが。
その代わりにこの曲をご紹介したいと思います。
この曲は今回取り上げた中では比較的バラード寄りの曲ですが、クリフォードの演奏は鋭角的で少しおもしろいと思っています。
ドラムもブラシを使って猛プッシュしていますが、ナイスサポートですね。
6位「Salute to the Band Box(Master Take)」(アルバム:Complete Paris Sessions Vol.2)
■曲名:Salute to the Band Box(Master Take)
■曲名邦題:サリュート・トゥ・ザ・バンド・ボックス(マスター・テイク)
■アルバム名:Complete Paris Sessions Vol.2
■アルバム名邦題:コンプリート・パリ・セッション Vol.2
■動画リンク:「Salute to the Band Box(Master Take)」
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クリフォードは早い時期から「ファッツ・ナバロの再来」と呼ばれ、噂になっていたようです。
その頃の彼は引っ張りだこで、この曲の前にはタッド・ダメロン(Tadd Dameron)楽団にも参加していました。
この演奏はライオネル・ハンプトン(Lionel Hampton)楽団の一員として渡仏した時に、ひそかにレコーディングされたものです。
ライオネル・ハンプトンは、若いバンドのメンバーが勝手にホテルを抜け出さないよう、ロビーに見張りまで置いていたそうですが、クリフォードたちはまんまと裏口から抜け出すことに成功しました。
このレコーディングはアンリ・ルノー(Henri Renaud)らによって事前に準備されていて、クリフォードは同僚ジジ・グライス(Gigi Gryce)などと一緒に、このレコーディングに参加しました。
まるで修学旅行で先生の目をかいくぐって、女子生徒の部屋に行こうとする男子高校生のようですね。
さて演奏面では、1:59からが聞きどころです。
この曲が他の曲に比べて特別にすばらしいわけではありませんが、どの曲でも小気味良く歌っていて、普段着感覚の演奏が魅力的です。
最終的には楽曲の魅力が決め手となり、この曲を選びました。
このパリの録音は1集から3集まであって、よほどのファンでない限り集める必要はないかもしれません。
ちなみにこの曲は「The Clifford Brown Sextet in Paris」にも入っていますが、そちらは現在廃盤です。
ただ時々中古で安く売っているのを見かけることがありますので、見つけたら買っておくといいかもしれません。
7位「I Get a Kick out of You」(アルバム:Brown and Roach Incorporated)
■曲名:I Get a Kick out of You
■曲名邦題:君にこそ心ときめく
■アルバム名:Brown and Roach Incorporated
■アルバム名邦題:ブラウン・ローチ・インコーポレイテッド
■動画リンク:「I Get a Kick out of You」
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このアルバムは代表作として取り上げられることがありません。
クリフォードが参加していない曲があることや、マックス・ローチのドラムソロが長い曲が多いことで、相対的にクリフォード含有率が低いと思われているせいかもしれません。
この曲でもマックス・ローチのドラムソロが長いです。
ローチの演奏は「よく歌うようなドラム」と言われます。
つまりドラムという打楽器を演奏しているのに、音楽性を感じさせるドラムの演奏ができる人です。
ただここでのドラムソロは、あまり良い出来ではないかもしれません。
すごいとは思いますが、正直なところ少々退屈してしまうのですね。
ドラムソロなんか聞きたくないと言う方は、4:37から6:40までを飛ばすのもありです。
しかし2分もドラムソロをやっていたのか。
その代わりにマックス・ローチのすばらしい演奏を聞きたい方は、ソニー・ロリンズの「Saxophone Colossus」をおすすめいたします。
この曲ではハロルド・ランドとリッチー・パウエルの演奏も、まあまあぐらいの出来だと思います。
しかしそれにも関わらずこの曲をおすすめするのは、ひとえにクリフォードのソロがすばらしいからです。
00:55~3:11が彼のソロですが、彼の特徴である早いテンポでも余裕を感じさせるすばらしい演奏です。
トランペットは高い音では苦し気でやせた音になりますが、そうはなってはいませんね。
ほころびがなく、速い中でも必死な感じがしない。むしろ優雅さすら感じられる演奏です。
8位「Donna Lee」(アルバム:The Beginning and the End)
■曲名:Donna Lee
■曲名邦題:ドナ・リー
■アルバム名:The Beginning and the End
■アルバム名邦題:ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド
■動画リンク:「Donna Lee」
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彼の初録音と最後の録音を収録しているという企画色の強いアルバムです。
ただ最後の録音と言われている方は、近年事実とは異なるという証言が出ていますから、話半分とした方がいいかもしれません。
まず初録音では「アイ・カム・フロム・ジャマイカ(I Come from Jamaica)」に注目です。
これは1952年の録音ですね。
クリス・パウエル(Chris Powell)というラテン色の強いR&Bバンドの一員として演奏していますが、この時点で完全に個性が確立していることが分かります。
しかし一番の聞きどころは、最後の録音?と言われている「チュニジアの夜(A Night in Tunisia)」とこの曲です。
初めて聞いた時は、最後の演奏にふさわしい命を削るような演奏だと思ったものです。
クリフォードは1956年自動車事故で、短い人生を終えています。享年25歳。
彼を失ったことは、ジャズ界にとって大きな損失でした。
彼の死を受けてベニー・ゴルソン(Benny Golson)は「アイ・リメンバー・クリフォード(I Remember Clifford)」という追悼曲を書きました。
その曲を演奏して、新たに台頭したのがリー・モーガン(Lee Morgan)ですが、リーも33歳の若さで亡くなりました。
ファッツ・ナヴァロも26歳で早死にしましたし、天才トランペット奏者は夭折が多いのですね。
9位「Jordu」(アルバム:Max Roach and Clifford Brown In Concert)
■曲名:Jordu
■曲名邦題:ジョードゥ
■アルバム名:Max Roach and Clifford Brown In Concert
■アルバム名邦題:マックス・ローチ=クリフォード・ブラウン・イン・コンサート
■動画リンク:「Jordu」
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この曲は「Clifford Brown & Max Roach」に入っているバージョンが有名ですが、アドリブの魅力ではこちらに軍配を挙げたいと思います。
クリフォードの演奏は、アドリブの構成力がすばらしいと言われています。
アドリブの構成力がどういうものかは、少し分かりにくいかもしれません。
文章では伏線を後で回収したり、起承転結がなど展開がしっかりしているイメージかもしれません。
演奏においては、なんとなく場当たり的に吹いているのではなく、飽きさせないような展開がある曲を指すことが多いです。
構成力に欠けた演奏は、フレーズを垂れ流しているように聞こえてしまうものです。
では構成力のある演奏はどういうものかというと、この曲を聞いていただくのが一番手っ取り早いかもしれません。
まずは00:58から3:12あたりをお聞きください。
このアルバムはライブですから、基本的に出たとこ勝負で演奏していると思われます。
それにも関わらず彼は、タンギングでひと盛り上がりをつくったかと思えば、その後時々早いフレーズを織り交ぜながら、緩急に富んだ演奏をしています。
その結果、緊張と緩和のバランスがとても良い演奏になっています。
勢い勝負だけではこうはなりません。
10位「Move」(アルバム:Jam Session)
■曲名:Move
■曲名邦題:ムーヴ
■アルバム名:Jam Session
■アルバム名邦題:ジャム・セッション
■動画リンク:「Move」
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私は基本的にジャズにくつろぎを求めるタイプのジャズリスナーです。
火が出るようなアドリブという売り文句を見ると、買うのをためらってしまう方です。
一般にそういうふれこみの曲は早い曲が多いように思いますが、曲のテンポが速くなると、曲の中で選択できる音の幅が狭まったり、ちょっとしたニューアンスを付与することが難しくなるものです。
それは車の運転にも似ています。
その為速い曲では無理やりテンションを上げた勢いだけの演奏が多くなる傾向にあります。
火の出るようなアドリブといわれる演奏には、想像力に欠けて、テンションの高さで押し切った演奏が多いかもしれません。
しかしクリフォードの場合、早いリズムの中でも想像力を失いません。
優等生キャラなのに、ストリート・ファイトに滅法強いみたいな感じでしょうか。
この曲はほとんど「パンク・ジャズ」「喧嘩ジャズ」といえそうな、とてもラフなジャムセッションです。
先程から何度か速い曲でも優雅さが感じられると書きました。
この曲でも、テーマの後のトランペットソロをお聞きください。
こんな曲でも想像力に満ちた演奏をしているのですね。
確かに彼の技術面でも優れていますが、本当のすごさはそこではないかもしれません。
どんな曲でもイマジネーションを失わないこと。まさに想像力の塊です。