今回はゲイリー・バートンのランキングを作成しました。
この人はジャズ・ヴィブラフォニストです。
ヴィブラフォンの改革者でありつつ、多くの美しい音楽を残しました。
この記事では彼のキャリアを振り返り、とびっきりの名演をご紹介してみました。
- 1 1位「Chega De Saudade (No More Blues)」(アルバム:Alone at Last)
- 2 2位「Open Your Eyes, You Can Fly」(アルバム:The New Quartet)
- 3 3位「General Mojo’s Well Laid Plan」(アルバム:Duster)
- 4 4位「Icarus」(アルバム:Matchbook)
- 5 5位「Elucidation」(アルバム:Like Minds)
- 6 6位「Sea Journey」(アルバム:Passengers)
- 7 7位「Early」(アルバム:Generations)
- 8 8位「Jackalope」(アルバム:Guided Tour)
- 9 9位「If I Were A Bell」(アルバム:Departure)
- 10 10位「You Stepped out of a Dream」(アルバム:New Vibe Man in Town)
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1位「Chega De Saudade (No More Blues)」(アルバム:Alone at Last)
■曲名:Chega De Saudade (No More Blues)
■曲名邦題:ノー・モア・ブルース
■アルバム名:Alone at Last(1972年)
■アルバム名邦題:アローン・アット・ラスト
■動画リンク:「Chega De Saudade (No More Blues)」
この曲のオリジナルはジョアン・ジルベルト(Joao Gilberto)で、1958年に発表されました。
最初のボサノヴァの曲と言われています。
曲名は「想いあふれて」という邦題で呼ばれることも。
歌詞では別れた女性について、彼女のいない人生など考えられないという狂おしい気持ちがつづられています。
この演奏でも内省的でありつつ、狂おしくほとばしる気持ちが表現されていますね。
アルバム名の「Alone at Last」は「ついに一人」という意味。
アルバム名の通り収録曲は全てソロ演奏ばかりですが、彼はヴィブラフォン以外の楽器も演奏していて単調にはなっていません。
前半はライブ、後半はスタジオ録音です。
ヴィブラフォン特有の心地良い響きを堪能したい方には、このアルバムがおすすめです。
彼の最高傑作だと思いますし。
この曲はアルバムのラストに収録されていますが、聞いた後の余韻もまた格別です。
2位「Open Your Eyes, You Can Fly」(アルバム:The New Quartet)
■曲名:Open Your Eyes, You Can Fly
■曲名邦題:オープン・ユア・アイズ
■アルバム名:The New Quartet(1973年)
■アルバム名邦題:ゲイリー・バートン・ニュー・カルテット
■動画リンク:「Open Your Eyes, You Can Fly」
この頃彼は絶頂期の真っただ中にありました。
1971年にはヴィブラフォン・ソロの金字塔「Alone at Last」を発表しています。
翌1972年にはチック・コリア(Chick Corea)とのデュオ作「クリスタル・サイレンス(Crystal Silence)」が絶賛されました。
そして1973年には、この「The New Quartet」をリリースしています。
「新しいカルテット」というアルバム名から、このグループに自信を持っている様子が伝わってきますね。
中でもベースのエイブラハム・ラボリエル(Abraham Laboriel)は要チェックです。
ためしに4:30からのベース・ソロをお聞きください。
フュージョン/クロスオーヴァー寄りの作品であるため、ジャズの文脈で紹介される機会が少ないのが残念です。
その代わりに、この曲はHIOHOPでよくサンプリングされています。
中でもピート・ロック(Pete Rock)の「Pete’s Jazz」がよく知られていますが、ここでは以下の曲をご紹介しましょう。
J-Live – It Don’t Stop from Then What Happened?
3位「General Mojo’s Well Laid Plan」(アルバム:Duster)
■曲名:General Mojo’s Well Laid Plan
■曲名邦題:モジョ将軍の戦略
■アルバム名:Duster(1967年)
■アルバム名邦題:ダスター
■動画リンク:「General Mojo’s Well Laid Plan」
この作品はジャズ・ロックと呼ばれることがあります。
私はジャズの文脈で言われるジャズ・ロックについて、違和感を感じることが多いです。
たとえばエイトビートであっても、上ものがジャズっぽい演奏はジャズだと思いますし。
フォービートだけがジャズではないと思うのですね。
そもそも他の楽器に比べると、ヴィブラフォン単独ではジャンルを特定しにくいかもしれません。
その場合、他の楽器と合わせて聞いて初めてカテゴリーを特定できる場合があります。
この曲ではラリー・コリエル(Larry Coryell)のギターが、ジャンルを特定する手がかりになるかもしれません。
ただこの曲のギターはロック的でもありませんし、それよりフォーキーといえそうです。
初期のキース・ジャレット(Keith Jarrett)の諸作やヴァン・モリソン(Van Morrison)の「アストラル・ウィークス(Astral Weeks)」などと同じく、ジャズでもロックでもフォークでもない何か別のもの。
真にクロスオーヴァーな、それゆえ異端の音楽かもしれません。
4位「Icarus」(アルバム:Matchbook)
■曲名:Icarus
■曲名邦題:イカルス
■アルバム名:Matchbook(1975年)
■アルバム名邦題:マッチブック
■動画リンク:「Icarus」
この記事の選曲するにあたって、いくつか条件を設けました。
人気のチック・コリアとのデュオ盤はいずれ別記事を書く予定なので、ここでは対象外にしています。
その他の共演作では、相手側の単独記事で紹介予定の曲も除外しました。
それでも選びきれないほど良い曲が多いですし、
さてこのアルバムは、ギタリストのラルフ・タウナー(Ralph Towner)との共同名義。
現時点でラルフ・タウナーの単独記事は予定していないので、この記事で取り上げることにしました。
それにしてもラルフ・タウナーとの相性は抜群です。
ちなみにこの曲はポール・ウィンターのバージョンもかなりすばらしい出来です。
ゲイリー・バートンは演奏の良し悪しが少なく、ソロ、デュオ、グループ等どんな編成も苦にしません。
5位「Elucidation」(アルバム:Like Minds)
■曲名:Elucidation
■曲名邦題:イルシデイション
■アルバム名:Like Minds(1998年)
■アルバム名邦題:ライク・マインズ
■動画リンク:「Elucidation」
このアルバムではゲイリーと相性の良い2人が参加しています。
その2人とはチック・コリアとパット・メセニー(Pat Metheny)。
特にパット・メセニーにとって、ゲイリー・バートンは恩人といえる人です。
1972年、ゲイリー・バートンのコンサートの際、メセニーは彼の楽屋に行き、自身の演奏を披露しバートンのグループの加入を願う。バートンはメセニーの実力を認め、彼の推薦により18歳でバークリー音楽大学の講師を務めた。
ちなみにアルバム名の「Like Minds」とは「同じ考え方や好みを持った」という意味。
その名前の通りこのアルバムは親和性の高い人が集結し、各自の曲を持ち寄ってつくられました。
当然悪かろうはずがありません。
デイヴ・ホランド(Dave Holland)とロイ・ヘインズ(Roy Haynes)を含めて、グループとしてまとまりの良さを感じます。
6位「Sea Journey」(アルバム:Passengers)
■曲名:Sea Journey
■曲名邦題:シー・ジャーニー
■アルバム名:Passengers(1976年)
■アルバム名邦題:パッセンジャー
■動画リンク:「Sea Journey」
このアルバムはベーシスト、エバーハルト・ウェーバー(Eberhard Weber)との共同名義です。
ただこのアルバムでは、全曲の作曲を担当したパット・メセニーがキーマンかもしれません。
ゲイリー・バートンの音楽を語る時、音楽全体で判断しないと、彼の魅力の半分しか分からないと思うことがあります。
ジャズのプレイヤーには、高い演奏力で一点突破する人がいます。
一方演奏力で引っ張りつつも、音楽監督としてすぐれた手腕を振るう人もいます。
ゲイリー・バートンは典型的な後者のタイプ。
ただ一歩引いて音楽全体を俯瞰するゲイリー・バートンの存在なくして、この曲は成立しないように思います。
そもそもゲイリーの演奏だけで選曲していたら、この曲を選んでいませんし。
ではゲイリーが同じく音楽監督タイプの人と組んだらどうなるでしょうか。
以下の曲で彼はカーラ・ブレイ(Carla Bley)に活かされて、楽想豊かなすばらしいソロを披露しています。
Gary Burton – Interlude: “Lament” Intermission Music
7位「Early」(アルバム:Generations)
■曲名:Early
■曲名邦題:アーリー
■アルバム名:Generations(2004年)
■アルバム名邦題:ジェネレーションズ
■動画リンク:「Early」
ゲイリーはラテン系の人と相性が良いように思います。
チック・コリアとのデュオを始めとして、アストル・ピアソラ(Astor Piazzolla)の作品集も発表しています。
この記事でも1曲ラテンっぽい曲を選んでみました。
このアルバムでは当時16歳のジュリアン・レイジ(Julian Lage)を抜擢しました。
ジュリアンはギターの演奏のみならず、この曲を書いています。
一方ゲイリーは演奏だけでなく、プロデュースも担当しています。
ゲイリー・バートンはパット・メセニーを筆頭に、優秀な人材を発掘し教育した人でした。
彼は1971年から2002年まで長きに渡って、バークリー音楽大学の教壇に立ちました。
単に優秀なヴィブラフォン奏者だけの存在ではありません。
8位「Jackalope」(アルバム:Guided Tour)
■曲名:Jackalope
■曲名邦題:ジャッカロープ
■アルバム名:Guided Tour(2013年)
■アルバム名邦題:ガイデッド・ツアー
■動画リンク:「Jackalope」
2017年彼は音楽活動を引退しました。
その頃既に彼は70年代半ばになっていました。
長年彼は演奏者と教職、両方の仕事で大忙しだったと思われます。
彼はグラミー賞を7回受賞した誰もが認める大きな存在で、引退を宣言しなければ仕事のオファーは絶えなかったと思われます。
このアルバムは2013年という最晩年にリリースされました。
この作品は第56回グラミー賞で最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバムを受賞しています。
晩年まで創作面で衰えることなく、高水準な音楽活動を維持しました。
同年彼は同性のパートナー、ジョナサン・チョンと結婚しました。
翌年1994年にゲイリーは、ゲイであることをカミングアウトしています。
彼は多くの優れた作品を生み出し、実力に見合った名誉も得ることができました。
後はゆっくり余生を楽しんでいただきたいと思います。
9位「If I Were A Bell」(アルバム:Departure)
■曲名:If I Were A Bell
■曲名邦題:イフ・アイ・ワー・ア・ベル
■アルバム名:Departure(1997年)
■アルバム名邦題:ディパーチャー
■動画リンク:「If I Were A Bell」
このアルバムはスタンダード集です。
しかも緊張感とかキレッキレの演奏ではなく、どの曲もくつろげる演奏ばかり。
大傑作とは言いませんが、ゲイリーが保守的にスタンダードを演奏しているのは新鮮です。
彼はヴィブラフォン奏者の巨人ミルト・ジャクソン(Milt Jackson)とよく比較されます。
ミルト・ジャクソンはソウルフルでブルージーな演奏が特徴の人でした。
ただ同じ楽器でもプレースタイルが違いすぎるので、比較しても仕方ないかもしれません。
ピアノでもジェリー・ロール・モートン(Jelly Roll Morton)とセシル・テイラー(Cecil Taylor)を比較しても意味がないように。
ただこのアルバムを聞くと、ゲイリーのリラックスした演奏も良いなと感じます。
彼は緊張感漂う美しい演奏が多めですが、こういう演奏もご紹介しておきたいと思いました。
10位「You Stepped out of a Dream」(アルバム:New Vibe Man in Town)
■曲名:You Stepped out of a Dream
■曲名邦題:ユー・ステップド・アウト・オブ・ア・ドリーム
■アルバム名:New Vibe Man in Town(1961年)
■アルバム名邦題:ニュー・ヴァイブ・マン・イン・タウン
■動画リンク:「You Stepped out of a Dream」
最後に彼の技術面について、少し触れておきたいと思います。
彼はレッド・ノーヴォ(Red Norvo)が始めた「4本マレット奏法」を更に発展させました。
ゲイリーのマレットの握り方は「バートン・グリップ」と呼ばれています。
ちなみにミルトは2本マレットで、それが通常の奏法。
本数が多ければいいというものではありませんが、4本マレットにすると和音を使う時に選択肢が広がります。
彼は「ダンプニング奏法」と呼ばれる技術を用いて、和音と単音の変幻自在な共存を可能にしました。
ゲイリー・バートンは良いヴィブラフォン奏者というだけでなく、表現領域を拡大した人。
彼の音楽は知的ですが、その知性は音楽の魅力を高めることに使われました。
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