今回はベニー・シングスのランキングを作成しました。
この人は枕詞のように「ポップ・マエストロ」という言い方で呼ばれる人です。
確かに質の高いポップスをつくりあげることに関しては、現代最高の1人だと思います。
もしこの人を聞いたことがなくて、以下のアーティストが好きであれば、強くおすすめいたします。
・ニック・デカロ(Nick DeCaro)
・クリス・モンテス(Chris Montez)
・マイケル・フランクス(Michael Franks)
・ギルバート・オサリバン(Gilbert O’Sullivan)
・キリンジ
そうそうたる名前ばかりですが、ベニー・シングスはそうした系譜を受け継ぐ才能のあふれるアーティストです。
そうした人たちをお好きな方は、聞く価値があると思います。
一聴してベニー・シングスと分かる音づくりの魅力も、ぜひ味わってみてください。
- 1 1位「Little Donna」(アルバム:I Love You〈Live At The Bimhuis〉)
- 2 2位「Let Me In」(アルバム:Benny… at Home)
- 3 3位「Softly (Tokyo)」(アルバム:City Pop)
- 4 4位「Honey Bee」(アルバム:ART)
- 5 5位「Passionfruit」(アルバム未収録曲)
- 6 6位「All We Do For Love」(アルバム:ART)
- 7 7位「I Can’t Help Myself」(アルバム:Benny… at Home)
- 8 8位「Below the Waterfall」(アルバム:I Love You〈Live At The Bimhuis〉)
- 9 9位「We Ain’t Going Nowhere」(アルバム:Champagne People)
- 10 10位「Nakameguro feat. Faberyayo」(アルバム:City Pop)
1位「Little Donna」(アルバム:I Love You〈Live At The Bimhuis〉)
■曲名:Little Donna
■曲名邦題:リトル・ドナ
■アルバム名:I Love You〈Live At The Bimhuis〉
■アルバム名邦題:アイ・ラブ・ユー ライブ・アット・ザ・ビムハウス
■動画リンク:「Little Donna」
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私がベニー・シングスを知ったのは、このアルバムからでした。
その1曲目にあたるこの曲で、イントロを聞いた瞬間アタリであることを確信しました。
一応ライブらしくアルバムでは歓声が入っていますが、オフィシャルビデオでは歓声がカットされています。
しかし聞いての通りライブらしさの欠片もありません。
AORというか、インドアポップスといった感があります。
私は疑似ライブではないかと思って「Bimhuis」というライブ会場が実在するか調べてみました。
するとありました。
「Bimhuis」は「ビムハウス」と読むのですが、オランダにあるジャズを中心としたライブ会場のようです。
「bimhuis capacity」で調べたところ、200人ぐらい最大収容人数のようです。
今ではすっかりメジャーになった感のあるベニーですが、この時点ではまだそれほど売れていなかったことが分かります。
彼の快進撃はこの曲から始まりました。
2位「Let Me In」(アルバム:Benny… at Home)
■曲名:Let Me In
■曲名邦題:レット・ミー・イン
■アルバム名:Benny… at Home
■アルバム名邦題:ベニー…アット・ホーム
■動画リンク:「Let Me In」
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まず最初のピアノから42秒ぐらいのところで、ポップに弾ける展開がすばらしいですね。
この人はソングライティング能力が高い人で、いわゆる捨て曲みたいなものがありません。
当時よく引き合いに出されていたのは、ポール・マッカートニー(Paul McCartney)、ギルバート・オサリバンあたりだったと記憶しています。
彼の音楽にはポップスとHIPHOP、ソウルミュージックあたりの影響は伺えますが、ロックっぽい要素は微塵も感じられません。
完全なる純正ポップです。
そしてこの曲も、ポップのマエストロとして本領発揮といった曲に仕上がっています。
私は長年ロックを聞いてきたせいか、どこか音楽ににごりみたいなものを求めてしまうところがありますが、この人の音楽には、そうしたものは全くありません。
しかしにごりが皆無の音楽であっても、ここまで質が高く純粋なポップスだと、もうぐうの音も出ません。
「ロックの根底にはブルースがなければ」という人も、ぜひ聞いてみていただきたいと思います。
そういう人をも強引に引き寄せる可能性を持つ、完全無欠のポップスだと思います。
3位「Softly (Tokyo)」(アルバム:City Pop)
■曲名:Softly (Tokyo)
■曲名邦題:ソフトリー(Tokyo)
■アルバム名:City Pop
■アルバム名邦題:City Melody
■動画リンク:「Softly (Tokyo)」
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彼は日本びいきらしく、この曲以外にも日本テーマにした曲があります。
この少し前まで少し実験色を強めていた時期がありました。
2~3作目あたりの安心して聞けるポップス路線とは、少し違う音楽性を試していたようです。
そうした時期にもすばらしい曲はあるのですが、私は少しキャッチーな曲が減ったように感じました。
その試行錯誤期に発表された「スタジオ(Studio)」というアルバムでは、メイヤー・ホーソーン(Mayer Hawthorne)と共演した曲もあります。
すばらしい曲だと思ったものの、ランキングに入れるほどではありませんでした。
そうした時期を経て、再度保守的なポップス路線に戻ったのが、このアルバムです。
しかし彼は自分の音楽性を曲げたわけではなさそうです。
というのも、彼には山下達郎の熱心なファンという側面があって、元々こういう音楽を好んでいたからです。
アルバムタイトルも「City Pop」ですしね。
海外では日本のシティ・ポップが一ジャンルとして定着した感がありますが、この曲などはその逆輸入版といえる曲だと思います。
4位「Honey Bee」(アルバム:ART)
■曲名:Honey Bee
■曲名邦題:ハニー・ビー
■アルバム名:ART
■アルバム名邦題:アート
■動画リンク:「Honey Bee」
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この人の音楽には、聞くと音が整理されている心地よさがあります。
録音のせいもありますが、古い音楽はとかく音が団子状態になりがちです。
場合によってはそれほど意図があるとは思えない音が、無造作に重ねられている場合もあります。
それが吉と出る場合もありますが、聞いていて疲れてしまう時があるかもしれません。
しかし比較的新しい時代のアーティストの中には、音の空間を整理して、聞き手に負担をかけさせないようにできる人もいます。
ベニー・シングスはその内の1人です。
この曲を聞くと、無駄な音が入っていないことに気がつきます。
それぞれの音には固有の役割が与えられていて、重複した役割を担っていません。
おしゃれできちんと整理された空間にいるような気分にさせてくれる音楽です。
またこのドラムには、この人の特徴がよく出ています。
めちゃくちゃシンプルなドラムです。
遊びのないドラムだと思うかもしれませんが、このドラムには無印良品の商品のようなシンプルな魅力があります。
ジャストよりやや前のめりのタイミングや固めの音質など、耳を惹きつけて離さないドラムです。
伝わる人だけに伝わる言い方をすれば、ニュー・ミュージック (New Musik)というバンドのドラムの使い方に、少し似ています。
5位「Passionfruit」(アルバム未収録曲)
■曲名:Passionfruit
■動画リンク:「Passionfruit」
この曲はドレイク(Drake)のカバーです。
オールドロックファンには耳なじみがないかもしれませんが、ドレイクは現代を代表するHOPHOPアーティストです。
この曲は原曲を大胆に変えて、ベニー色を強めています。
特にリズムをレゲエっぽくしたのはすばらしい解釈で、私はドレイクのバージョンを上回っているように思います。
聞き比べていただけるように、オリジナルを引用しておきましょう。
ただ残念ながら、この曲はアルバムに入っていません。
私もたまたま知っていただけです。
改めて調べてみましたが、どのアルバムにも入っていませんでした。
もしかしたらファンの方でも聞き逃している方がいらっしゃるかもしれません。
隠れた名曲だといえると思いますが、こんなすばらしい曲はアルバムに入れておいてほしいものです。
6位「All We Do For Love」(アルバム:ART)
■曲名:All We Do For Love
■曲名邦題:オール・ウィ・ドゥ・フォー・ラヴ
■アルバム名:ART
■アルバム名邦題:アート
■動画リンク:「All We Do For Love」
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「Passionfruit」で思い出しましたが、私が初めてこの人のスローな曲を聞いた時に、マイケル・フランクスに似ていると思いました。
マイケル・フランクスも「パッションフルーツ(Passionfruit)」というアルバムを出していました。
この人は声の線の細さが弱点になりそうでならない人ですが、そういうところもマイケル・フランクスに似ています。
この曲などはまさしくそのまんまではないでしょうか。
実際ベニーはマイケル・フランクスのファンのようですから、その線を狙ったのかもしれません。
またこれまで歌詞については触れていませんが、この人はあまり歌詞に凝るタイプではなさそうです。
この曲のタイトルは「All We Do For Love」です。
直訳すると「愛のために私たちがすることのすべて」というタイトルなのです。
深い意味を含んだ歌詞かもしれないと期待して読んでみましたが、そこまで深い歌詞ではありませんでした。
ただ誠実な男性の気持ちが歌われているだけです。
そもそも彼の音楽に含蓄に富んでいるようなところはないかもしれません。
誤解を恐れずに言うと、ひたすら表面的な音の心地よさと、メロディの魅力に尽きるといってもいいと思います。
むしろ潔いと思えるほどです。
歌詞も哲学的な響きなどはありませんが、心地よい言葉が過不足なく並んでいて、曲の世界をつくりあげています。
7位「I Can’t Help Myself」(アルバム:Benny… at Home)
■曲名:I Can’t Help Myself
■曲名邦題:アイ・キャント・ヘルプ・マイセルフ
■アルバム名:Benny… at Home
■アルバム名邦題:ベニー…アット・ホーム
■動画リンク:「I Can’t Help Myself」
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この曲はまず独特のつかみがありますね。
その独特な雰囲気の中で、ベニーと女性コーラスがいい感じに歌っています。
転調が効果的に使われています。
彼にしてはアップテンポでいなたい曲なので、好みが分かれる曲かもしれませんが、私はすばらしい出来だと思っています。
彼はこのアルバムぐらいから国際的な評価を高めました。
フランスの有名なラジオ局「Radio Nova」に呼ばれたり、アニメの主題曲をオファーされたり、一躍人気者になっています。
ローカル限定の人気から、国際的な人気アーティストへと羽ばたき始めた時期です。
改めてご説明するとベニーはオランダ出身で、本名は「Tim van Berkestijn」といいます。
彼はこのアルバムまで「Sonar Kollektiv」というレーベルに所属していましたが、次作からは「Dox Records」に移籍して、よりワールドワイドに活躍していくことになります。
8位「Below the Waterfall」(アルバム:I Love You〈Live At The Bimhuis〉)
■曲名:Below the Waterfall
■曲名邦題:ビロウ・ザ・ウォーターフォール
■アルバム名:I Love You〈Live At The Bimhuis〉
■アルバム名邦題:アイ・ラブ・ユー ライブ・アット・ザ・ビムハウス
■動画リンク:「Below the Waterfall」
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私はこのアルバムで初めて知りましたが、特にこの曲を聞いた時に、彼の才能について確信を深めました。
弾むような曲は、まぐれあたりで良い曲を書ける人がいます。
またバラードだけ良い人というのもいます。
しかしこの曲のようにミディアムテンポで、このレベルの出来はなかなかありません。
華やいだ空気感まで醸し出しています。
才能のある人なのだと確信するのに充分でした。
この曲では本人が弾いているピアノが、とても心地よいペースをつくり出しています。
クリス・モンテスのように少し弱気なところがあるものの、極めて質の高いポップスだと思います。
ビブラフォンとか、ミュートのかかったトランペットなどの使い方もとてもおしゃれで、まさに現代のA&Mといった風情が感じられます。
9位「We Ain’t Going Nowhere」(アルバム:Champagne People)
■曲名:We Ain’t Going Nowhere
■アルバム名:Champagne People
■アルバム名邦題:シャンペン・ピープル
■動画リンク:「We Ain’t Going Nowhere」
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デビューアルバムからの選曲です。
このアルバムには、時々HIPHOPのバックグラウンドが垣間見えます。
実際にベニーはHIOHOPグループ「Abstract Dialect」でベースを弾いていたり、これもHIPHOP系の「De Toffen」の一員という側面を持っています。
後に「シューボックス・マネー・フィーチャリング・メイヤー・ホーソーン(Shoe Box Money feat. Mayer Hawthorne)」で共演したメイヤー・ホーソーンもそうですが、HIPHOP系の人にメロウな曲をやらせたら、このようなすばらしい曲を生み出すことがあります。
特にこの曲などは、チルアウトに最適です。
今回のランキングはスローはこの曲だけとなりましたが、このアルバムにはこの種のメロウな名曲が他にもいくつかあります。
またリズムのアプローチがHIPHOP寄りというだけで、曲調してはとてもポップな曲も多いので、セカンドアルバムあたりが好きな人でも失望はしないと思います。
他にもフリーソウルな「Unconditional Love」など名曲が多く、ファンなら聞き逃せない作品です。
10位「Nakameguro feat. Faberyayo」(アルバム:City Pop)
■曲名:Nakameguro feat. Faberyayo
■アルバム名:City Pop
■動画リンク:「Nakameguro feat. Faberyayo」
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最後に少し変わった曲をご紹介したいと思います。
この人の音づくりはとても独特ですが、この曲では「中目黒」と繰り返し歌われるだけで、ほぼインストです。
彼は独特なポップな曲を書けるだけなく、この曲のようにアレンジだけで聞かせてしまえるところにも強みがあります。
彼はジョヴァンカ(Giovanca)、ウーター・ヘメル(Wouter Hamel)、日本では安藤裕子などのプロデュースも手掛けていて、どれも傑作ぞろいです。
どのアルバムにも彼独特のサウンドの刻印が押されていて、一聴して彼のプロデュースだと分かります。
プロデューサーとしても一流の手腕が、この曲からも伺えます。
この曲に関しては、彼の曲にしては珍しくベースが活躍しています。
彼はヒップホップバンドでベースを演奏していました。
しかし自分のアルバムではいつもドラムが目立つ一方で、ベースが目立たない曲が多いと感じていました。
おそらくこの人はプレイヤー気質の人ではなく、サウンド全体のバランスを考えているプロデューサー的な人なのかなと思います。