今回はアルバート・アイラーのランキングを作成しました。
この人はフリージャズに分類されるサックス奏者です。
難しいと言われることも多く、実際私も理解するのに時間がかかりました。
この記事ではその経験をふまえて、できるだけ分かりやすく魅力をお伝えできればと思っています。
- 1 1位「Ghosts: First Variation」(アルバム:Spiritual Unity)
- 2 2位「Bye Bye Blackbird」(アルバム:My Name Is Albert Ayler)
- 3 3位「Truth Is Marching In」(アルバム:In Greenwich Village)
- 4 4位「Witches and Devils」(アルバム:Spirits)
- 5 5位「Deep River」(アルバム:Goin’ Home)
- 6 6位「Spirits」(アルバム:Bells/Prophecy)
- 7 7位「Our Prayer」(アルバム:Slugs Saloon)
- 8 8位「Summertime」(アルバム:My Name Is Albert Ayler)
- 9 9位「Spirits Rejoice」(アルバム:Spirits Rejoice)
- 10 10位「Music Is the Healing Force of the Universe」(アルバム:Nuits De La Fondation Maeght 1970)
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1位「Ghosts: First Variation」(アルバム:Spiritual Unity)
■曲名:Ghosts: First Variation
■曲名邦題:ゴースト(ファースト・ヴァリエーション)
■アルバム名:Spiritual Unity
■アルバム名邦題:スピリチュアル・ユニティ
■動画リンク:「Ghosts: First Variation」
この曲はニグロ・スピリチュアルと童歌を組み合わせたような、郷愁を誘うメロディから始まります。
その後お腹を下したようなアイラーの演奏に続いていますね。
あえて汚い表現をしたのは、一般的な意味では決してきれいな音とはいえないからです。
その汚い音をどうとらえるか、それこそがアイラーの音楽を楽しめるかどうかの別れ道。
なぜわざわざそんなものを聞かなければいけないのかと思うかもしれません。
私なりに彼の音楽を理解する上で、手がかりを1つ挙げておきましょう。
アイラーのサックスはエモーショナルです。
しかも少しどころではなく、とんでもなく究極的にエモーショナルです。
読者の方は、実生活や映画などで人が嗚咽するシーンを見たことがあるかもしれません。
その声そのものは決して澄んでいるものではなく濁音ばかりですが、その声は汚いでしょうか。
つまりアイラーの音楽は、感極まった時の嗚咽と同じ。
ただの騒音だと思っていたら、生きていることが愛おしく感じられる音楽です。
耳の順応は容易ではありませんが、そう認識することが最初の一歩かもしれません。
2位「Bye Bye Blackbird」(アルバム:My Name Is Albert Ayler)
■曲名:Bye Bye Blackbird
■曲名邦題:バイ・バイ・ブラックバード
■アルバム名:My Name Is Albert Ayler
■アルバム名邦題:マイ・ネーム・イズ・アルバート・アイラー
■動画リンク:「Bye Bye Blackbird」
そういう私も最初はアイラーの良さを理解できませんでした。
そもそもこの人は普通のジャズ・ファンからも理解不能と思われがちなプレイヤーです。
具体的には思い出せませんが、なぜこんな音楽を好んで聞くのかと真顔で聞かれたことがあったような気がします。
ただそれは彼の音楽を聞き込んでいないだけかもしれません。
良さが分かるまでは苦行かもしれませんが。。。
少し話がそれますが、そのアーティストを理解したとはどういう状態でしょうか。
ジャズでは、度々こうしたことが問題になっているように思います。
私の考えでは見栄や義務感ではなく、純粋にまたその音楽を聞きたいと思うこと。
私は正しい理解というものがあること自体疑わしい派ですが、結果的に行動で判断するしかないと思っています。
私は繰り返し聞いてアイラーの音楽と格闘した結果、この曲をきっかけにして開眼しました。
理解してからの私は度々この演奏を聞きたくなりますし、1回聞いただけではあき足らず、何度も繰り返し聞いてしまいます。
ウィントン・ケリー(Wynton Kelly)みたいなピアノが、私の理解を手助けしてくれたかもしれません。
3位「Truth Is Marching In」(アルバム:In Greenwich Village)
■曲名:Truth Is Marching In
■曲名邦題:トゥルース・イズ・マーチング・イン
■アルバム名:In Greenwich Village
■アルバム名邦題:グリニッチ・ヴィレッジのアルバート・アイラー
■動画リンク:「Truth Is Marching In」
この人の最高傑作は「Spiritual Unity」というのが定説です。
私も否定しません。
しかし私は同じぐらい好きなアルバムとして「My Name Is Albert Ayler」とこの「In Greenwich Village」も挙げたいと思います。
インパルス(Impulse!)時代のアイラーといえば、悪名高き時代です。
それは問題作「ニュー・グラス(New Grass)」のせいかもしれません。
そのアルバムはボーカル入りのR&Bに、アイラーが加わった異色作でした。
アイラーの演奏自体は悪くありませんが、正直私はあまり聞く気になりません。
ボーカル入りなら、同じくインパルス時代の「Music Is the Healing Force of the Universe」の方が良いと思います。
一方このアルバムは「Love Cry」と並んで、ぜひチェックしておきたい作品です。
同じアルバムから、もう1曲挙げておきましょう。
4位「Witches and Devils」(アルバム:Spirits)
■曲名:Witches and Devils
■曲名邦題:ウィッチズ・アンド・デヴィルズ
■アルバム名:Spirits
■アルバム名邦題:スピリッツ
■動画リンク:「Witches and Devils」
アイラーの音楽を楽しむ時には、純粋に響きを楽しむというのもおすすめです。
ただ彼の音は物悲しく聞こえる人も多いかもしれません。
それはおそらく彼のルーツに黒人霊歌、ニグロスピリチュアルがあるせいだと思われます。
黒人霊歌とは黒人が奴隷の頃に生まれた、救済を願う気持ちが込められた音楽。
彼は1936年7月13日生まれですが、彼が子供の頃は黒人は社会的に過酷な環境に置かれていました。
自然と彼らの歌には哀歌が多くなります。
先程アイラーの音楽を理解する手がかりは、エモーショナルさだと書きました。
そのエモさは、アイラーの演奏に哀感漂う音色とビブラートとして表れています。
彼の演奏は、時に過剰なほどビブラートを多用していますが、感情の震えを表現しています。
5位「Deep River」(アルバム:Goin’ Home)
■曲名:Deep River
■曲名邦題:ディープ・リヴァー
■アルバム名:Goin’ Home
■アルバム名邦題:ゴーイング・ホーム~プレイズ・スピリチュアル
■動画リンク:「Deep River」
「Swing Low Sweet Spiritual」というタイトルで知られているアルバムです。
このCDは現在入手困難ですが、私もかなり高い値段で買ったように記憶しています。
このアルバムはフリージャズではなく、黒人霊歌を取り上げた異色作。
しかしこれがなかなか悪くありません。
ジョージ・アダムス(George Adams)で少し似た企画盤がありましたが、あちらが歌心と包容力あふれる傑作なら、こちらはアイラーのメロディの解釈が聞きものです。
この人については、メロディの優れた解釈者であることについて、あまり語られていないように感じます。
先程私は「Bye Bye Blackbird」で魅力に気付いたと書きました。
彼はあの有名曲を終始調子っぱずれに解釈していましたが、私はそこが良いと思いました。
このアルバムでは、もっとストレートに吹いています。
しかしメロディの解釈力はさすがとしか言いようがありません。
ジョン・コルトレーン(John Coltrane)のバラード(Ballads)」のように、アイラーのバラード集としてもおすすめです。
6位「Spirits」(アルバム:Bells/Prophecy)
■曲名:Spirits
■曲名邦題:スピリッツ
■アルバム名:Bells/Prophecy
■アルバム名邦題:ベルズ/プロフェシー
■動画リンク:「Spirits」
このアルバムは元々「Bells」「Prophecy」という別々の作品を1枚にしています。
ちなみに「Bells」はレコードで片面に「Bells」1曲が収録されて、B面には曲が入っていない変則アルバム。
ただその「Bells」も、かなりおすすめの演奏です。
この曲はアイラーの代表曲の1つ。
ちなみにアイラーはデューク・エリントン(Duke Ellington)のように、自分が書いた曲を繰り返し演奏する傾向があります。
この曲は31秒のバージョンもご紹介しておきましょう。
彼は新しい地平線を切り開くため、スタンダード・ナンバーを取り上げたくなったかもしれません。
従来のメロディやコード進行を追認したくないと。
その代わり彼の音楽はテーマのメロディが、激しくアップダウンしています。
このアップダウンについては、また後で触れてみたいと思います。
7位「Our Prayer」(アルバム:Slugs Saloon)
■曲名:Our Prayer
■曲名邦題:アワー・プレイヤー
■アルバム名:Slugs Saloon
■アルバム名邦題:スラッグス・サルーン1966
■動画リンク:「Our Prayer」
私はいつも曲を選んでウィキペディアを読んだら、すぐに書き始めています。
しかし今回はアイラーについて、どのように語られているのか興味があって、まずは手持ちの本でアイラーの記事を読みました。
それらの本ではアイラーについて、観念的に語られがちだと書かれていました。
そこで更に私は、アイラーについていくつかブログを読んでみることにしました。
私が読んだところ、それほど観念的な文章はありませんでした。
ただアイラーの良さを理解している方ばかりでしたので、分かっている立場から書いていると思いました。
もちろんそれは悪いことではありません。
一方私は主に初心者を想定してレビューするようにしています。
私は既存ブログの屋上屋を架すとならないよう、いつも以上に入門者を意識して記事を書くことにしました。
私は先にアイラーの魅力に気付いた者として、水先案内人になりたいと思っています。
最後にボヤキを1つ。
アイラーのブログを読んでいたところ、あるジャズ評論家の書籍の文章を、自分が書いた文章として掲載している人がいました。
さらしたりあげつらいたいとは思いませんが、少し悲しく感じました。
8位「Summertime」(アルバム:My Name Is Albert Ayler)
■曲名:Summertime
■曲名邦題:サマータイム
■アルバム名:My Name Is Albert Ayler
■アルバム名邦題:マイ・ネーム・イズ・アルバート・アイラー
■動画リンク:「Summertime」
アイラーはフリージャズに分類されます。
フリージャズとは、コードやリズムなど従来のルールから逸脱した音楽のこと。
ただこの演奏をフリージャズと言っていいのかは、少し微妙なところです。
まさにフリージャズの世界に足を踏み入れようとしている、境界線上にある演奏かもしれません。
この曲で彼はテナー・サックスを吹いています。
しかし彼の演奏は、アルト・サックス相当の音域になることも少なくありません。
その点ジョン・コルトレーンと似ていて、どちらも高い音域を苦にしないテナーサックス奏者です。
ではテナーで高音域を苦にしないとどうなるのでしょうか。
演奏にダイナミズムが出ます。
たとえばテナー特有の豊かな低音と、そこから一気に高音へと駆け上がるスリルなど。
フリージャズという概念では自由を目指していても、楽器の物理的特性は超えられません。
しかしその制約された中で、アイラーはもっと自由になることを欲していました。
彼は籠の中の鳥ではいたくなかったのかもしれません。
9位「Spirits Rejoice」(アルバム:Spirits Rejoice)
■曲名:Spirits Rejoice
■曲名邦題:スピリッツ・リジョイス
■アルバム名:Spirits Rejoice
■アルバム名邦題:スピリッツ・リジョイス
■動画リンク:「Spirits Rejoice」
アイラーの演奏の分かりにくさは、中間がないこと。
たとえばこの曲ではニューオリンズ風のメロディを演奏した後、突如として激しい演奏になると、置いてきぼりになる感じがします。
アイラーを聞き込む前の私は、そんな風に感じました。
軍隊の行進曲とか童歌風から、急にスイッチが入るパターンもあります。
その切り替えの早さにリスナーが付いていけなくなることが、彼の音楽を分かりにくくしています。
彼の音楽について、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)の影響下にあるというレビューを読んだことがあります。
しかし私はそうは思いません。
確かにロリンズが激しい演奏をする時、似たような感じになることがあります。
しかしロリンズは時間をかけて激しさに到達していますので、リスナーは置き去りにされません。
そもそも一部のフレーズが似ていても、似て非なるものという印象を受けますが。
ちなみにアイラーはデビュー前「リトル・バード」と呼ばれていたそうです。
私は「バード」こと、チャーリー・パーカー(Charlie Parker)の方が似ていると感じます。
詳しくは触れませんが「My Name Is Albert Ayler」では、かなり顕著だと思います。
10位「Music Is the Healing Force of the Universe」(アルバム:Nuits De La Fondation Maeght 1970)
■曲名:Music Is the Healing Force of the Universe
■曲名邦題:ミュージック・イズ・ザ・ヒーリング・フォース・オブ・ザ・ユニヴァース
■アルバム名:Nuits De La Fondation Maeght 1970
■動画リンク:「Music Is the Healing Force of the Universe」
昔難しいと感じた音楽をしばらくしてから聞くと、思ったより難しくないと感じないことはないでしょうか。
しかしそれは一方で寂しいことかもしれません。
理解できず霧がかった部分と理解できた部分がごちゃまぜのまま、その音楽を好きになることがあるからです。
今回私はアイラーを聞きなおして、まだ難しい音楽のままでいてくれて良かったと思いました。
私はこの記事で分かった風なことを書きました。
しかしそれは分かった部分だけを書いているからにすぎません。
まだ私が挑戦しなければいけない、未解明な部分を残した音楽のままでいてくれました。
さてアイラーは1970年、ニューヨークのイーストリバーで溺死体が発見されました。
自殺という説が有力ですが、殺されたという説もあるようです。
この曲はその死の少し前に演奏されています。
彼はデビューからESPまでの頃が高く評価されています。
インパルス時代は少し方向性を模索していましたが、晩年彼はこのアルバムの境地に至りました。
晩年の彼はボーカル入りでスピリチュアル路線になりました。
苛烈な演奏が減り、若干聞きやすくなっています。
この曲は恋人メアリー・マリア・パークス(Mary Maria Parks)の歌に寄り添う演奏が、とても美しいです。
早すぎる死は残念ですが、音楽的には有終の美を飾ったといえるでしょう。
この人については、中上健次の「破壊せよ、とアイラーは言った」という小説のタイトルが独り歩きしている感があります。
しかしこの曲名ではこんな感じかもしれません。
「宇宙を癒せ、とアイラーは言った」
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