今回はスタン・ゲッツのランキングを作成しました。
この記事では演奏ではなく、楽曲に焦点を当てて選曲をしてみました。
半分はボサノヴァの曲ですが、それ以外でもくつろげる曲を多めにしています。
- 1 1位「Cherokee」(アルバム:Hamp and Getz)
- 2 2位「Grandfather’s Waltz」(アルバム:Stan Getz & Bill Evans)
- 3 3位「Corcovado (Quiet Nights of Quiet Stars)」(アルバム:Getz/Gilberto (with Joao Gilberto))
- 4 4位「Chega de Saudade」(アルバム:Getz/Gilberto ’76 (with Joao Gilberto))
- 5 5位「E Luxo So (Ary Barroso)」(アルバム:Jazz Samba (with Charlie Byrd))
- 6 6位「Menina Moca (Young Lady)」(アルバム:Stan Getz with Guest Artist Laurindo Almeida)
- 7 7位「Just One of Those Things」(アルバム:The Best of Two Worlds)
- 8 8位「Liz-Anne」(アルバム:Cal Tjader-Stan Getz Sextet)
- 9 9位「La Fiesta」(アルバム:Captain Marvel)
- 10 10位「First Song」(アルバム:People Time)
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1位「Cherokee」(アルバム:Hamp and Getz)
■曲名:Cherokee
■曲名邦題:チェロキー
■アルバム名:Hamp and Getz
■アルバム名邦題:ハンプ&ゲッツ
■動画リンク:「Cherokee」
このアルバムはそれほど有名ではありませんが、私は隠れた名盤だと思います。
特にこの曲の冒頭ではゲッツのテナー・サックスが聞きもので、どこまでも登りつめていくかのようです。
1950年代はそれ以前に比べてホットな演奏が増えていますが、その最良の演奏といえるかもしれません。
このアルバムは、ヴィブラフォン奏者のライオネル・ハンプトン(Lionel Hampton)との共同名義です。
ライオネル・ハンプトンは、有名なジャズスタンダード「スターダスト(Stardust)」の作者として有名な人です。
スローの「スターダスト」とは違って、ライオネル・ハンプトンは熱を感じる演奏をしていますね。
特に6分すぎからサックスに切り込む高速ヴィブラフォンは必聴です。
2位「Grandfather’s Waltz」(アルバム:Stan Getz & Bill Evans)
■曲名:Grandfather’s Waltz
■曲名邦題:グランドファーザーズ・ワルツ
■アルバム名:Stan Getz & Bill Evans
■アルバム名邦題:スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス
■動画リンク:「Grandfather’s Waltz」
こちらは、ビル・エバンス(Bill Evans)との共同名義です。
イントロはいつものビル・エバンスらしく、パラパラと散文的に弾いていますね。
1:16になってようやくゲッツのサックスが始まりますが、出だしのすするような小粋な歌わせ方が絶品です。
この曲はとにかくメロディが魅力です。
ビル・エバンスは「ワルツ・フォー・デビイ(Waltz for Debby)」という有名な曲を書いていますが、こちらの曲はビルの作曲ではありません。
ゲッツはこの曲が気に入ったのか「Getz/Gilberto #2」でも演奏していますが、そちらはゲイリー・バートン(Gary Burton)のヴィブラフォンがすばらしいです。
しかしこんな良い曲なのに、この2人以外にあまり取り上げていないのはもったいない気がしてしまいます。
3位「Corcovado (Quiet Nights of Quiet Stars)」(アルバム:Getz/Gilberto (with Joao Gilberto))
■曲名:Corcovado (Quiet Nights of Quiet Stars)
■曲名邦題:コルコヴァード
■アルバム名:Getz/Gilberto (with Joao Gilberto)
■アルバム名邦題:ゲッツ/ジルベルト
■動画リンク:「Corcovado (Quiet Nights of Quiet Stars)」
ゲッツのボサノヴァは、どの曲が一番とは言い難いところがあるかもしれません。
というのは、楽曲自体はいいけれど、ゲッツの演奏がいまひとつの曲があるからです。
ジョアン・ジルベルトは、いつも通り高水準のパフォーマンスですし。
この曲はまず、アストラッド・ジルベルト(Astrud Gilberto)のボーカルから始まりますが、彼女はこの日が初レコーディングでした。
当時の彼女はジョアンの妻という立場、つまり素人でした。
たまたまスタジオに同行した彼女に対し、試しに歌ってみるようにすすめたら、すばらしい歌だったのでそのまま採用されたと言われています。
ただ彼女は事前に計画していました。
アストラッドは元々歌手志望で、最初から歌う気が満々でスタジオに行ったそうです。
実際スタジオに行ったアストラッドは歌いたいと志願しました。
一方プロデューサーのクリード・テイラー(Creed Taylor)も、アメリカで受け入れられるためには、英語の歌があった方がいいと思っていたところ。
つまり主役であるはずのゲッツやジョアンとは関係ないところで、2人の思惑が一致してこの名曲が生まれたというのが真相のようです。
それが大ヒットしたので、全員がウィン・ウィンになりました。
4位「Chega de Saudade」(アルバム:Getz/Gilberto ’76 (with Joao Gilberto))
■曲名:Chega de Saudade
■曲名邦題:想いあふれて
■アルバム名:Getz/Gilberto ’76 (with Joao Gilberto)
■アルバム名邦題:ゲッツ/ジルベルト’76
■動画リンク:「Chega de Saudade」
この曲は単なるボサノヴァの中の1曲ではなく、歴史的に意義のある曲です。
この曲は1958年に、ボサノヴァとして最初にレコーディングされた曲だと言われています。
つまり現在のボサノヴァの曲は、この曲から始まったといえるかもしれません。
私はこの曲が全てのボサノヴァの曲の中で一番好きで、この曲が入っているCDは無条件に買ってしまいます。
さて先程ご紹介した「Getz/Gilberto」は世界的な大ヒットを記録して、ゲッツはグラミー賞4部門受賞しました。
ただゲッツは歌もののボサノヴァが得意ではないと言う人も多いですし、私も一部同意するところがあります。
ただ中にはこの曲のように、すばらしい演奏もあります。
私が思うボサノヴァの禁じ手は、濃厚すぎる、雄弁すぎる、ビッグブロウあたりだと思いますが、ここではきちんとその地雷を避けて演奏しています。
5位「E Luxo So (Ary Barroso)」(アルバム:Jazz Samba (with Charlie Byrd))
■曲名:E Luxo So (Ary Barroso)
■曲名邦題:エ・ルーショ・ソ
■アルバム名:Jazz Samba (with Charlie Byrd)
■アルバム名邦題:ジャズ・サンバ
■動画リンク:「E Luxo So (Ary Barroso)」
年配のジャズファンほどゲッツのボサノヴァが好きではないという傾向があるような気がします。
私はジャズではなく、高級イージーリスニングみたいに考えたらいいと思います。
イージーリスニングにはイージーリスニングなりの良さがありますし。
ちなみに私はゲッツのアドリブでは1950年前後が一番すごいと思っています。
今聞いても奇跡的にフレーズが古びていません。
ただその頃の代表作「ザ・コンプリート・ルースト・セッション(Complete Roost Recordings)」などを聞いても、当時既にこういう演奏をする萌芽があったように思います。
たとえば当時の決定的名演と言われている「イエスタデイズ(Yesterdays)」という曲があります。
Stan Getz Quartet – Yesterdays
陰影に富んだメロディの解釈は絶品です。
おそらく当時のリスナーは高級イージーリスニングみたいな感じで聞いていたかもしれません。
元々この人はスムースで美しいメロディを吹かせたら、当代随一の人です。
イージーリスニングっぽい演奏も、悪かろうはずがありません。
6位「Menina Moca (Young Lady)」(アルバム:Stan Getz with Guest Artist Laurindo Almeida)
■曲名:Menina Moca (Young Lady)
■曲名邦題:若い娘
■アルバム名:Stan Getz with Guest Artist Laurindo Almeida
■アルバム名邦題:ゲッツ/アルメイダ
■動画リンク:「Menina Moca (Young Lady)」
楽曲の魅力にうなる曲です。
ただ私はこのアルバムと、ダスコ・ゴイコヴィッチ(Dusko Gojkovic)の「Samba Tzigane」でしか聞いたことがありません。
そもそもどういう曲か分からないので調べてみたところ、こういう記事が見つかりました。
小娘Menina Moça〜イパネマの娘よりも人気があったという“忘れられた”ボサノヴァの名曲
上のサイトによると、この曲は一時はかなり流行ったそうですが、ちょっとしたボサノヴァ内の派閥争いによって、忘れられた名曲になってしまったそうです。
一方スタン・ゲッツは1957年には7枚、1958年には5枚のアルバムを出していますから、かなりの売れっ子だったことが分かります
当時彼は麻薬代を稼ぐために精力的に仕事をしていましたが、それでもお金が足りませんでした。
1954年には注射用のモルヒネを入手するために強盗に入り有罪判決を受けていますし、その後もヘロイン中毒で実刑判決を受けています。
しかし1959年と1960年はレコーディングがありません。
麻薬トラブルにばかりの1950年代の終わり頃、彼は北欧に移住して、一時はジャズを離れて隠遁生活を送っていました。
それが1959年と1960年というわけですが、当時は彼自身がこの曲のように忘れられかけた存在だったようです。
7位「Just One of Those Things」(アルバム:The Best of Two Worlds)
■曲名:Just One of Those Things
■曲名邦題:ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス
■アルバム名:The Best of Two Worlds
■アルバム名邦題:ゲッツ・ジルベルト・アゲイン
■動画リンク:「Just One of Those Things」
これも「Getz/Gilberto」の続編アルバムで、ジョアン・ジルベルトも参加しています。
前作「Getz/Gilberto」のレコーディング中、2人はかなり険悪な関係だった言われています。
ジョアンはアントニオ・カルロス・ジョビンに罵倒を翻訳して伝えるように依頼したところ、困ったジョビンは「あなたのテナーはすばらしい」と伝えました。
しかしゲッツはジョアンの様子を見て「彼はそう言っていないようだね」と答えたという逸話が残っています。
さてその経緯をふまえてジャケットを見ると、真ん中のゲッツと右にいるジョアンの接触部分が少し不自然に感じないでしょうか。
今度は裏ジャケも見てみましょう。
ゲッツがジョアンの方に不自然に寄りかかっていますが、おそらく合成写真なのでしょう。
もう一つ私が長年不思議に思っていることがあります。
なぜゲッツはジョアンと共演すると、不用意に大味なブロウをしてしまうのか。
おそらくジョアンは、ゲッツが自分の後に、曲の雰囲気を壊す大きな音で割り込んでくるのが気に食わなかった感じがしないでもありません。
そのせいで多くのブラジル音楽ファンからも、ゲッツはボサノヴァを分かっていないと非難されています。
もしかしたらジョアンとの関係悪化が、そうした演奏をしたことに影響しているかもしれません。
しかしこの曲などはいかがでしょうか。
1:28から入り方は少し唐突ですが、ミウシャ(Miucha)ことエロイザ・ブアルキ(Heloisa Buarque)のボーカルに対して、いい感じに絡んでいます。
こういうのが本来のゲッツの演奏なのですけどね。
8位「Liz-Anne」(アルバム:Cal Tjader-Stan Getz Sextet)
■曲名:Liz-Anne
■曲名邦題:リズ・アン
■アルバム名:Cal Tjader-Stan Getz Sextet
■アルバム名邦題:カル・ジェイダー-スタン・ゲッツ・セクステット
■動画リンク:「Liz-Anne」
ゲッツ若い頃、クールな演奏で名声をほしいままにしていました。
その後彼は1952年ぐらいから、より温かみのある演奏をするようになりました。
その過程で彼は様々な人と共演し、音楽性の幅を広げることに成功しています。
1950年代の主だった共演者を挙げておきましょう。
ライオネル・ハンプトン(Lionel Hampton)
ビル・エバンス(Bill Evans)
オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)
ジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)
チェット・ベイカー(Chet Baker)
J・J・ジョンソン(J.J.Johnson)
ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)
中でも最も異色の共演が、カル・ジェイダーです。
カルジェイダーはラテン色の強いヴィブラフォン奏者で、メインストリームのジャズとは少し毛並みが違う人かもしれません。
しかしこの曲などは、とてもリラックスした良い演奏だと思います。
私はゲッツに関してすごいと思う演奏と、好きな演奏がかなり違います。
この曲とか「スタン・ゲッツ・プレイズ(Stan Getz Plays)」みたいなくつろいだ演奏は、すごいといより好きと感じる演奏です。
9位「La Fiesta」(アルバム:Captain Marvel)
■曲名:La Fiesta
■曲名邦題:ラ・フィエスタ
■アルバム名:Captain Marvel
■アルバム名邦題:キャプテン・マーヴェル
■動画リンク:「La Fiesta」
リターン・トゥ・フォーエヴァー(Return to Forever)で有名な曲です。
原曲をご存知の方は、演奏もリターン・トゥ・フォーエヴァーっぽいと思われるかもしれません。
それもそのはず、この曲のメンバーはリターン・トゥ・フォーエヴァーと3人かぶっています。
チック・コリア(Chick Corea)、スタンリー・クラーク(Stanley Clarke)、アイアート・モレイラ(Airto Moreira)という中核の3人が同じです。
同じ曲をほぼ同じメンバーで演奏しているのですから、似ていて当然かもしれません。
違いはジョー・ファレル(Joe Farrell)がゲッツになっていることと、こちらにはトニー・ウィリアムス(Tony Williams)のドラムが入っているところです。
ゲッツは名作「スウィート・レイン(Sweet Rain)」で共演してから、チック・コリアと近い関係にありました。
当時の新進気鋭の若手プレイヤーがお膳立てした上で、ゲッツは力強くブロウしています。
トニーのドラムが煽っているせいかもしれません。
ベテラン2人がホットで、若手がクールに演奏していますが、そのギャップもおもしろいです。
10位「First Song」(アルバム:People Time)
■曲名:First Song
■曲名邦題:ファースト・ソング
■アルバム名:People Time
■アルバム名邦題:ピープル・タイム
■動画リンク:「First Song」
彼は貧しい家庭に生まれ、早くから音楽の才能を発揮すると、次第にドラックに耽溺し始めました。
ようやく麻薬中毒から脱すると、次にアルコール中毒になって、後年は癌と戦うことになりました。
甘美な演奏スタイルに比べて、ハードモードの人生だったかもしれません。
ちなみにスタン・ゲッツは、村上春樹が大ファンであることで知られています。
たびたび小説の中でもゲッツの曲が登場していますし、評伝を翻訳するほどの執心ぶりです。
その本の中で村上春樹は、ゲッツの音楽についてこう書いています。
酒やクスリに溺れていても、ひとたびステージに上がれば自由自在な即興が冴えわたり、どんな楽曲も美しく演奏せずにはいられない。
一方でゲッツは好き嫌いが分かれるプレイヤーかもしれません。
嫌いな人はいいのは分かるけど、腹に響いてこないと言いたいのだと思います。
確かに私もそう感じることもありますが、美しすぎる音楽はそういうものかもしれないと思っていました。
しかしこの彼の遺作では、いつもとは違うかもしれません。
この頃ゲッツは癌が進行して、既に末期状態になっていました。
このライブは1991年3月の演奏ですが、彼は同年6月6日に亡くなっています。
共演したケニー・バロン(Kenny Barron)によると、この時ゲッツはギリギリの状態で演奏していたそうです。
ここには甘美な流麗さはありません。
しかしそれにもかかわらずこの演奏には、真に迫り無骨に訴えかけてきます。
曲名と相反する悲痛なスワン・ソング。
最後の最後になって、彼の演奏には凄みが加わったようようです。
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