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エルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal)の名曲名盤10選【代表曲・隠れた名曲】

今回はエルメート・パスコアールのランキングを作成しました。

彼の魅力は自由で天衣無縫なところです。

この記事では天才、奇才という一言で片付けられがちな彼の魅力を、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思って書きました。

真にクリエイティヴな彼の音楽をご堪能ください。

 

1位「Santo Antonio」(アルバム:Zabumbe-Bum-A)

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■曲名:Santo Antonio
■曲名邦題:聖アントニオへの貢物
■アルバム名:Zabumbe-Bum-A(1979年)
■アルバム名邦題:サブンベ・ブン・アー(調和)
■動画リンク:「Santo Antonio」

彼の音楽は型にはまらないところがあるせいで、その魅力を言葉で伝えるのは難しいように思います。

たとえばこの曲を例にご説明してみましょう。

彼の音楽はインストが多いですが、中にはボーカル入りの曲もあります。

この曲にも人の声が入っています。

しかしこの声をボーカルと言ってもいいものでしょうか。

最初は人の声であっても効果音に近いと思っていたら、最後の方では何人かで歌っていますね。

歌っているけれど、ボーカルではないと言い表したらいいでしょうか(笑)

彼の音楽について語る時には、常にこの種の困難さがつきまといます。

発想の自由さゆえに言葉では捕捉できないような。

この記事ではそんな彼の魅力をできるだけ言葉に置き換えてお伝えしたいと思っています。

 

2位「Bebe」(アルバム:A Musica Livre De Hermeto Pascoal)

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■曲名:Bebe
■曲名邦題:ベベ
■アルバム名:A Musica Livre De Hermeto Pascoal(1973年)
■アルバム名邦題:ア・ムジカ・リヴリ・ジ・エルメート・パスコアール
■動画リンク:「Bebe」

初期の彼を代表する曲です。

この記事の中で最も初期の曲で、1973年の曲ですから50年以上前ということになります。

しかし驚異的に時代を感じさせませんね。

ちなみに彼は幼少期から音楽に著しい才能を発揮し、14歳の時にラジオ番組でプロ・デビューしています。

彼は1936年生まれですから、1950年には音楽で収入を得ていたことになります。

1964年彼はアイアート・モレイラ(Airto Moreira)らとサンブラーザ・トリオ(Sambrasa Trio)を結成し、1966年にはトリオ・ノーヴォ(Trio Novo)のメンバーになりました。

その後はソロ活動へと転じ、1973年初期を代表するこのアルバムを発表しました。

この曲を聞くと、その後の音楽性と大きく変わらないと思われるかもしれません。

この頃彼は37歳前後で、既に彼は自分の音楽を確立していました。

 

3位「O Galo Do Airan」(アルバム:Festa Dos Deuses)

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■曲名:O Galo Do Airan
■曲名邦題:オ・ガロ・ド・アイラン 
■アルバム名:Festa Dos Deuses(1992年)
■アルバム名邦題:神々の祭り
■動画リンク:「O Galo Do Airan」

彼の最高傑作としてよく挙げられるアルバムです。

他には「Slaves Mass」「Ao Vivo Montreux Jazz Festival」あたりが最高傑作の候補でしょうか。

ちなみに彼のアルバムは、それほど出来不出来の波がありません。

初めて聞く方にとっては、それよりも曲のまとまりの方が重要な気がします。

なぜなら彼の音楽は自由過ぎて、常人の理解の枠組みを簡単に超えることが多く、それが彼の音楽を理解する上で障壁になるような気がします。

この曲でもニワトリの鳴き声みたいな音が繰り返し入っていますが、意図がよく分かりませんね(笑)

それでもこのアルバムは比較的聞きやすい方なので、最初の1枚としてもおすすめです。

ただフリー・ジャズやスピリチュアル・ジャズがお好きな方は「Slaves Mass」の方がいいかもしれません。

 

4位「Mixing Pot (Tacho)」(アルバム:Slaves Mass)

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■曲名:Mixing Pot (Tacho)
■曲名邦題:ミキシング・ポット
■アルバム名:Slaves Mass(1976年)
■アルバム名邦題:スレイヴス・マス
■動画リンク:「Mixing Pot (Tacho)」

現在この人の評価が高いのは、このアルバムの人気が大きいかもしれません。

聞きようによっては、フリーソウルとしても聞けますし。

昔は彼の音楽について、ジャズやフュージョンの文脈で紹介されることが多かったように思います。

ただこの人の音楽は絶望的にジャンル分けには向いていません。

フュージョンとして紹介されていても、こういうのもあるという異色作扱いが多かったように思います。

しかしその後レア・グルーヴとその影響を受けているフリーソウルでも、度々彼の存在がクローズアップされました。

評価される軸が増えたことは喜ばしいですが、どのジャンルでも異端的なポジションなのがこの人らしいかもしれません。

このアルバムからもう1曲ご紹介しましょう。

Hermeto Pascoal – Little Cry for Him (Chorinho pra Ele)

 

5位「Frevo em Maceio」(アルバム:Lagoa Da Canoa, Município De Arapiraca)

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■曲名:Frevo em Maceio
■アルバム名:Lagoa Da Canoa, Municipio De Arapiraca(1984年)
■動画リンク:「Frevo em Maceio」

この人の音楽を聞いていて思うことがあります。

それはあまりにクリエイティヴすぎて、クリエイティヴ酔いしてしまうこと。

クリエイティヴすぎて疲れるのですね。

あと沢山音楽を聴いてきた方なら覚えがあるかもしれませんが、無意識に経験で音楽を聞くことがあります

ある音楽を聞く時無意識に過去に聞いた音楽を参照したり、予測しながら音楽を聞いたりなど。

しかしこの人の音楽は、その経験値による予測や補正が難しいかもしれません。

この人は定型的なパターンに当てはまりにくく、変拍子やよく分からない展開から突如として高速のユニゾンになったり読めません。

少し目を離したら分からなくなるTVドラマのように、常に注意していなければならないのですね。

その分聞く時に集中力が必要とされます。

似た印象の曲でも細部が全然違ったりするので、情報を処理する脳に負荷がかかります。

 

6位「Forro em Santo Andre」(アルバム:Ao Vivo Montreux Jazz Festival)

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■曲名:Forro em Santo Andre
■曲名邦題:聖アンドレの庭
■アルバム名:Ao Vivo Montreux Jazz Festival(1979年)
■アルバム名邦題:ライヴ・イン・モントルー・ジャズ・フェスティヴァル
■動画リンク:「Forro em Santo Andre」

彼はマイルス・デイヴィス(Miles Davis)の作品に参加したことが知られています。

しかもマイルスは彼について「世界で最も印象的なミュージシャン」と、かなり高く評価しています。

彼が書いた曲で演奏にも参加した、マイルスの曲をご紹介しましょう。

Miles Davis – Little Church (Hermeto Pascoal)

上の曲はマイルスの「ライヴ・イヴル(Live-Evil)」に収録されています。

さてこの「Forro em Santo Andre」は、この記事の中で最もジャズらしい演奏です。

スタジオ録音での彼は音で遊びすぎる傾向があるので、環境に制約のあるライブの方がシンプルに彼の音楽を味わえます。

ちなみに彼は様々な楽器を演奏するマルチ・インストゥルメンタリスト。

ただ彼はデューク・エリントン(Duke Ellington)のように、音楽を全体で表現する人だと思われます。

そのため彼の音楽を聞く時は木を見て森を見ずにならないよう、個々の演奏に焦点を当てすぎない方がいいかもしれません。

 

7位「Novena」(アルバム:Hermeto Pascoal & Grupo)

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■曲名:Novena
■アルバム名:Hermeto Pascoal & Grupo(1982年)
■動画リンク:「Novena」

この記事では、彼の魅力をなるべく分かりやすくご紹介したいと思いました。

そもそもこの人の音楽は、まとまりやバランスの良くない曲が少なくありません。

ただし、だからこそ魅力的な曲もあります。

しかしそれだと初めて彼の音楽を聞く人に不親切なので、この記事では分かりやすい曲を重視して選曲しました。

さてこの人は色素障害のアルビノで、極度の弱視でもあります。

そのせいで子供の頃は家にこもって演奏ばかりしていたそうです。

しかしそうした生い立ちに反して、彼の音楽は解放感に満ちあふれていますね。

そういえばスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)は目が見えないのに色彩感を豊かですが、音楽では時々こういう風にハンデが反転することがあります。

加えて彼らの音楽にはハンデを感じさせないどころか濁りも感じられません。

 

8位「Ilha das Gaivotas」(アルバム:So Nao Toca Quem Nao Quer)

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■曲名:Ilha das Gaivotas
■アルバム名:So Nao Toca Quem Nao Quer(1987年)
■アルバム名邦題:ソ・ナン・トカ・ケン・ナン・ケル (やらないのはやりたくないだけ)
■動画リンク:「Ilha das Gaivotas」

まずアルバムの邦題が笑えます。

ためしにポルトガル語を直訳したところ「触りたくない人は触らないでください」でした。

邦題を付けた日本の担当者はいい仕事をしています。

さて今回の記事を書くにあたり、私はこの人についてどれほど書けるか不安でした。

というのは私はこの人について、それほど多くを知らないように感じていましたから。

そこで知識の不足を埋めようと、手持ちのディスクガイドやインターネットでも少し調べてみましたが、掘り下げている文章はそれほど多くありませんでした。

私が知りたいのは彼の音楽をどうとらえて、これから聞く人にどう説明したらしたら伝わるかです。

正直この記事でもうまく書けた感じはしません。

ただこのアルバムの邦題「やらないのはやりたくないだけ」は、彼の音楽を理解する上でヒントになりました。

裏を返せば「やりたい音楽をやっているだけ」です。

説明しようとリキみすぎない方がいいような気がしてきました。

 

9位「Musica das nuvens e do chao」(アルバム:Cerebro Magnetico)

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■曲名:Musica das nuvens e do chao
■曲名邦題:雲と大地の音楽
■アルバム名:Cerebro Magnetico(1980年)
■アルバム名邦題:セレブロ・マグネチコ(脳内革命)
■動画リンク:「Musica das nuvens e do chao」

この人はブラジルのアーティストです。

しかし一般的な意味でのブラジルらしさ、サンバやボサノヴァなどの要素は希薄です。

彼の音楽はジャズ/フュージョンとしてもブラジル音楽としても、枠内にきっちり収まる音楽ではありません。

ただおもしろいのは極めて異端的でありながら、その音楽はピュアな喜びが感じられること。

この曲も少し変テコでキテレツですが、天然で奇をてらった感じはしません。

もしかしたら彼の音楽はこういうものだと既存の枠組みに当てはめること自体、無理があるのかもしれません。

エルメート・パスコアールという1つのジャンルとして考えたらいいようような。

彼の音楽はブラジルの土着音楽から他の音楽へと、境界線をいとも簡単に踏み越えていくところがあります。

 

10位「Boiada」(アルバム:Eu E Eles)

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■曲名:Boiada
■アルバム名:Eu E Eles(1999年)
■アルバム名邦題:エウ・エ・エレス
■動画リンク:「Boiada」

私はこの人の記事を書く時、決めていたことがあります。

豚の鳴き声をレコーディングしたなどの奇人エピソードを過度にクローズアップせず、もっと音楽自体について語りたいと思っていました。

しかし最後に私の好きなエピソードを1つだけご紹介したいと思います。

1996年から1997年にかけて、パスコアルは「Calendário do Som」という本のプロジェクトに取り組みました。この本には、2月29日を含む1年すべての日に歌が収録されており、誰もが自分の誕生日に歌を楽しめるようにしました。

エルメート・パスコアル ウィキペディア(英語を翻訳)

このアルバムは最高傑作との誉れ高い前作「Festa Dos Deuses」から7年のブランクを経て発表されました。

その大切な時期、彼はこんなことをしていたのですね。

名声を求めたり野心の強い人ならば、違うところに時間を使ったかもしれません。

しかしエルメート・パスコアールは貴重な月日を、本のための曲を書くことに費やしました。

そういえば彼の音楽には、子供のように創作を楽しんでいる様子がうかがえます。

私はこのエピソードを読んだ時、彼の音楽の魅力とどこか通底するものを感じました。

 

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